愛を手に入れて

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「正清さま、あと15分で始まります」 田代が壁掛け時計を気にしながら正清に伝えた。 「そうか、では挨拶にいくとするか」 そう言って正清は椅子から立ち上がった。 ========== 緑豊かな園庭を眺められるこの特別室には、思い悩んでいる公卿がいた。 珠代から頼まれて無理やり開催するこのパーティー、はたして突き進めてよいのだろうか。 公卿は何かが合点しないことを薄々気がついていた。 コンコン 「公卿さま、こんにちは」 晴れやかな表情の正清が挨拶をする。その堂々とした態度は、自信に溢れている証でもあった。公卿に脅されてこのパーティーを開く者とはとても思えなかった。 そんな正清の姿を確認すると、明らかに動揺し目線を外した。その様子から、もう勝負はついた、と正清は悟る。 きっと公卿はすでに自らの過ちに気がついている。あえて、ここで追い詰める必要はなさそうだ。 「本日は私たちのために、仲人になってくださり大変嬉しく存じます」 「いや、まぁ。その、いいのか? このまま進めて……」 「もちろんでございます」 「……うむ」 中止するなら今だぞと言えず、なんともいえない顔をする公卿。 「それと、ここだけのお話ですが」 「な、なんだ」 「この度、新たに海運会社を設立致しました。有難いことに大手銀行からも融資のお話をたくさん頂き、嬉しい悲鳴をあげております」 つまり、融資には不自由はない。もし取引をしたいのなら公卿から頭を下げよ、ということだった。権力には権力で返し、公卿に頭を下げさせる。宣言通り、正清は見事にやってのけた。 公卿もそれを読み取り、返事をせずぐっと口を一文字に結んだ。 「では、本日はどうぞ宜しく頼みます」 正清はそう言って丁寧に頭を下げて退室した。 ====== 「公卿さま、なかなかの厳しいお顔でしたね」 田代が小声で言ってきた。廊下を歩きながら、正清は満足げに言う。 「もう勝敗はついている。渡したボールをどうするかは、公卿が決めればいいさ」 もう正清には隙など一つもない。いや、新たに挑むものが出現しても勝てる自信さえあった。 その目は澄み切っていた。背筋を伸ばし颯爽と会場に向かった。
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