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「すまない。つい、我を忘れてしまった。大丈夫だったか」
情事がようやく終わり、正清は愛子を抱きしめる。愛子は息も絶え絶えになり、正清の胸の上でぐったりと横たわる。
「……愛子は、幸せです」
そうつぶやくのが精いっぱいだった。
しばらくして、愛子が目を醒ますと目の前に正清の顔があった。はっと上半身を起こす。
「可愛い寝顔でした」
にんまりと笑う正清。二人はベッドの上で向き合うように座った。
「愛子、私からも渡したいものがある」
そういって先ほどテーブルに置いていた箱を手に取った。そして、パカッと箱を開け、中から指輪を取りだした。その指輪のトップには小さな光輝く鉱石がそびえ立っている。
「これはなんですか?」
愛子が鉱石をみて訊ねる。
「ダイヤモンドという宝石です。ヨーロッパでは結婚まえの女性に婚約の証として送るものです」
「綺麗ですね。でも、このような宝石があること、知りませんでした」
「仕方ありません。日本では輸入禁止の品物ですから」
「え、ではどうやって手に入れたのですか?」
「簡単です。宝飾品だと許可がおりないので、研磨剤として工業用に輸入をしました」
「さすがです」
愛子は感心する。
「私を誰とお思いで? 夏目正清ですよ。不可能はありません」
クスリと笑うと正清は愛子の左手を掬った。
「このダイヤモンドの意味を知っていますか?」
「何ですか?」
「意味は『永遠』です」
正清の言葉に、熱い、そして甘い空気が二人の間に流れる。
「愛子。これを受け取ってくれますか?」
正清が優しく微笑む。
「もちろん、喜んで」
愛子は泣くのを我慢し笑顔で答える。
そして、正清は愛子の左手の薬指に指輪をはめた。
🫧 完 🫧
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