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遠くから聞こえる笑い声
頭上から刺さるように降ってくる視線
こんなことが本当にあるとは思わなかった
チャイムがなる
夏の暑い日
ボロボロになって地面にある僕の制服
空いている窓から聞こえたのは先生への挨拶
起立、礼、着席
不審に思わない教員
巻き込まれたくない生徒
僕の反応を面白がって追いたて、
排除しようとする生徒
そう、僕は、いじめを受けている
いじめの理由は分からない
知りたくもない
いつの間にかそうなっていた
いじめの理由の大半は、自分と違う異分子的存在を
排除しようとする人間の本能だと
なにかで読んだ気がする
一応、担任には相談したが問題を大きくしたくないのか
クラス内の厳重注意だけで終わる
何とも不毛な抵抗
その注意によって頻度が上がるいじめ
犯人は分かっている
僕が何も抵抗しないのをいいことに
ゲラゲラ笑いながら楽しんでいる
まるで獣だ
「制服だって無料じゃない、それを理解する脳みそもないのかよ」
独り言はむなしく消える
さすがに親にはバレた
とても心配させた
「大丈夫、先生達も対応してくれてるから」
少しでも安心させたくて嘘をついた
僕の家は裕福ではない
でも、たくさん愛情を注いで育ててくれた
笑顔が素敵な家族だ
口には出さないが、僕も両親が好きだ
反抗するときもあるが、それでも
平凡で、穏やかで、幸せだ
でも今、僕のせいでそれが脅かされている
何とかしなきゃ
何とかしなきゃ
急にあせる気持ちがでてきた
いじめられる事も正直しんどいが
いじめによって家族に迷惑がかかる事の方が
嫌だった、苦しかった
見えないなにかに追われているようだった
心が変ににフワフワしていて
喉が締められるように嫌な物がある感じがしていた
酸欠にでもなった気分だった
でも、それもそろそろ終わりだ
いや、正確にはいじめは終わらない
むしろ終わらない方が助かる
終わらなければ、僕はずっと被害者でいられる
彼らを獣とするのなら
僕は人間でありたい
頭も、心も、体も、全て使う
この学校に僕の味方が居ないなら
外から連れてくればいい
まず、バイトを頑張った
改めてお金を稼ぐのは大変だと思った
両親を本当に尊敬する
僕のすることにはお金が必要だった
いくらかは獣達に取られてしまうだろうけど、
いわば、防犯上の捨て金だ
もったいないが
けれど思いの外、収穫もあった
お陰で美味しいお肉を両親にご馳走できそうだ
動画に広告を付けて、動画の再生数が伸びれば収益が少量出る
人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだと
僕はつくづく思った
蜜が甘ければ甘いほど
寄ってくる虫は多い
そう、僕は動画を出した
自分がいじめられている動画を
僕は今この時が、便利な世の中になって良かったなと思う
メールアドレスが簡単に、いくつも作れて
アカウントを複数持つことができる
まるで人間の多面性みだいだ
僕もそう
使える自分の面を使って
動画とって
サイトに投稿しただけ
無題で、説明書きもない
でも誰かが見れば、瞬く間に広がる
そしたら見知らぬ誰かが
勝手に正義感振りかざして
調べあげてくれる
丸見えの制服
顔にモザイクはかけたが
姿も声もそのままだ
少しでも信憑性をあげたくて
様々な視点から撮った
カメラ代はなかなかだった
獣達は顔ではなく、体を殴る
顔にアザでも残れば分かりやすいのだが
そういう悪知恵は働く
服を脱いでアザを見せてもいいが
それだと僕を変態扱いする人が増えたり
ヤラセを疑う人も出てきてしまう
カメラは撮ったらすぐ止める
たとえアカウントが凍結されても
また、違う自分を作ればいい
盗撮だと言われ、通報されるかもしれない
むしろ警察を呼んでくれた方がいい
僕は嘘を付く必要がなく、ありのままを話せばいい
動画の削除を要求されたら素直に消せばいい
僕が消したとしても
別の誰かが面白半分でコピーしたり
別サイトで投稿し直したりする
獣達のしてきたことが消えることはない
顔にモザイクをかけたとしても
賠償金が発生するかもしれない
そのためにバイトを頑張った
カメラ代より高くなる可能性があったから
その動画は僕にとって傷になるかもしれない
正直
恥ずかしかった、嫌だった、
みっともなくて、情けなくて、
死にたかった
でも、それは僕だけが感じている感情で
それさえ何とかできれば
何も怖いことなんてない
殺せ、殺せ
自分の心を、感情を
殺せ、殺すんだ
それさえできれば、獣達は
僕が手を下さなくても
勝手に狩られていく
それでも自分を殺しきれなくて
両親が見ていないところで
何度も自分の胸にナイフを突き立てた
ある時はナイフを家から持ち出して
獣達を殺してやろうとも思った
けれど、死を目の前にして気づいたこともある
痛いも、苦しいも、悲しいも、辛いも
死にたいという気持ちでさえ
生きてるときにしか感じることが出来ない
何より
もし、僕が死んだとして
その理由に獣達の名前を出したくなかった
優し両親に獣達とは無縁で居て欲しかった
それなら死ぬのは今じゃない
殺すのは僕の心だけ
殺せ
殺せ
殺せ
ネット上に投稿したものは見えない刺青とまで言われている
きっと僕の名前も残ってしまうだろう
でも、それでもいい
それがある限り
僕は被害者であり続け
獣達は加害者であり続ける
罪が認められ罰を受け
獣達の償いがすんだとしても
その刺青は消えない
その将来で、未来で、
就職に困るかもしれない
結婚して子供が出来たとき
子供に悪いことだと教えてあげられないかもしれない
それどころか
今度はその子供がいじめに合うかもしれない
たしかにこれは、蜜の味だ
僕は人の不幸を願う悪い人間になった気がした
けれど僕は心を殺せるようになった
恥もプライドもどこに落としたか分からないが
怖いものが減ったのはいいことだと思う
僕は僕の穏やかな生活を守りたいだけ
僕の世界の平和を守りたいだけ
獲物を狙う獣達
思う存分暴れよ、吠えよ
気づいたときにはもう遅い
お前を襲うは見えぬもの
不安に嫌悪、罪悪感
自分で彫ったその模様
時がたっても消えはせぬ
もがき苦しめ、獣達
心を病んだその時は
お前が獲物になる時だ
名知らぬ猟師の銃口が
お前の家族に向けられる
後悔してももう遅い
見えず聞こえぬその闇に
苦しめられて
そして死ね
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