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長く入院していると、お医者さんや看護師さんや一緒に入院中の人たちの温かさに感化される。いつのまにか、夏希は自分だけが不幸という考えが変わってきた。皆いろいろなものを抱えながら怪我や病気を治し、日々の生活に戻ろう、前へ進もうとしている。
それで、事故現場を訪ねる勇気が出た。
運転ミスで事故った母。いくら結婚式が嬉しいからって、あれほど急がなくたってよかったのに。
そこには夏希の抱えてきたよりも大きな花束が手向けられていた。その下敷きに枯れた茎や花びらが見受けられ、複数人か、または幾度も訪れてくれた人がいると知った。
あの人だろうか?
「何か使命があったから生き残ったんだと思う」
同室のお姉さんは成功率の低い手術を乗り切ったときにそう言った。そしてそれを探しに退院していった。
自分にも何か使命がある――? 夏希の呪いはそういう問いへ替わっていった。
それは何だろう。
助けてくれたあの人を捜し出し、恩返しする――?
あの人は、夏希を助けるために足を負傷したという。手当てしたお医者さんを教えてもらい、聞きに行くと。
「どこかでちゃんとした処置を受けてくれてるといいんだけど。そうじゃないと歩くのに少し辛さが残るかもね」
そう言われた。
あの人を捜し出す。それが夏希の使命なような気が、した。
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