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学校に戻っても1年遅れ。打ち込んでいた部活のバスケも体力が追いつかず再入部はし辛い。
仲良しのクラスメイトや部活仲間は卒業してしまった。年下の知らない顔たちが夏希を腫れ物扱い、退いているのがわかる。
夏希はできないことに目を向けるのを止めた。くよくよしていると思われたくない。元気いっぱい笑うようにした。
「可愛げのねえ女」
そんな中で偉そうにズケズケ言ってくるのは特殊な相手だった。
父の前妻の息子。海原昴。つまり腹違いの弟。世間には内緒だけど。
昴の母がいたせいで日陰の身だった夏希の母。夏希の母が不倫したせいで離婚に追い込まれた昴の母。そんな関係のそれぞれの娘と息子が、お互い良い印象を持っているわけがない。
そんな相手に「可愛げがない」と思われても構わないが、しょぼくれた姿を見せるのだけは我慢ならなかった。
学校は違うのに、通学路で時々一緒になる。向こうはお坊ちゃん学校、こっちはお嬢様学校。それがご近所。
夏希は必ず顔を上げ、目をそらさず平然とすれ違うようにした。ときには冷笑さえ投げて。無駄なプライドだと思いつつ譲れない。それがまた昴のカンに障るようで、しょっちゅう悪態をついてくるのだった。
とにかく一つ一つ潰して前へ進むことだけ考えた。
家を模様替えする。学校で年下の友達を作る。部活は手芸部に鞍替え。昴が何を言ってこようと笑う。
こんな風に日々を繕っていけたのは、あの人を見つけたい、という思いのせいだった。
菫色の指輪の人。
夏希を助けるためにした怪我ならば、夏希が治すのが筋じゃないだろうか。
治せる人になりたい。
だから、夏希は外科医をめざすと決めた。
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