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焼き鳥屋には澄江が先に来ていた。店に入って名前を言うと向かい合いの二人席に澄江がメニューを見ながら座っていた。
「早かったんだね。待った?」
「十分位前に着いたところ。今日は仕事が早く終わったから」
虹子は椅子に座り、おしぼりで手を拭いた。
「私は生中。澄江は? 好きなものを飲んで。食べて」
「私も生中。焼き鳥はレバーにももに軟骨かな」
「じゃ、二本ずつにしようか。私も食べたい」
虹子は店員に注文をした。グラスの色が白くなったビールが運ばれて来た。
「お疲れ様。乾杯」
「乾杯」
虹子が答えると早速澄江が身を乗り出した。
「で、どうしたの? 何かあったの?」
澄江は直人のことは虹子の口から聞いて知っているが、実際に会ったことはない。直人のルックスがどんなにいいか。見たら虹子が好きになった意味が分かるだろう。
「プロポーズされたの」
虹子はそう言って生ビールを飲んだ。
「付き合っている直人さんて人? 良かったじゃない。オーケーしたんでしょ」
「濁したままなの。彼、専業主婦になる道を選べって」
「虹子はイヤなの?」
「うん。仕事は続けたい」
世の中には専業主婦になりたくてもなれない人がいるのを知っている。それに子供を産んだとして育児休暇はあれど、仕事との両立が大変なことも知っている。でも仕事は続けたい。
「じゃあ、言ってみればいいんじゃない。結婚を諦める道か、仕事をする妻と結婚する道かどっちかを選べって」
そうか。こっちからも訊いてみればいいのだ。直人はなんて言うだろう。結婚を諦める道を選ばれたら自分は受け止められるか。
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