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直人はシステムエンジニアだった。偶然にも勤め先は新宿。虹子が恋に落ちるのに時間は掛からなかった。頼りがいのありそうな厚い胸。彫りの深い顔立ち。
思い出しながら次の前菜であるフォアグラを食べていると直人がすっとカウンターにリボンのついた箱を置いた。今日は誕生日でもないし、何かの記念日だったっけ? そう思いながら箱に手を掛けると直人がその上に手を重ねた。
「婚約指輪だ。僕に嵌めさせてほしい。一生大事にする」
まさかプロポーズされるとは思ってなかった。虹子は箱から手を離し無言のまま直人を見つめた。
「オーケーと取っていいのかな?」
太い指でリボンを外して箱を開ける。赤い台の上には指輪が乗っている。プラチナのリングで大きなダイヤモンドが乗ったものだ。
「左手を出して。ああ、よく似合う」
指輪は薬指でキラキラと輝いている。
「ありがとう。あの、私でいいの?」
「ああ、虹子、君しか考えられない。君には出版社で働く道を諦めて専業主婦になる道を選んでもらうことになるが大丈夫だろう?」
そんなことは寝耳に水だ。虹子は出版社で出世したい。子供を産んでも育児休暇を取って社会に復帰したいと考えていた。
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