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遠くに東京タワーのネオンが見える。目の前ではコックコートを着た四十代位のシェフが包丁で野菜を刻んでいる。虹子は横にいる直人の顔を見た。味わうように前菜のトマトと海老のカクテルを食べている。虹子も海老を口に運んで咀嚼した。優しい味がして美味しい。
虹子は二十五歳だ。大学を出て新宿の出版社で働いている。住まいは中央線沿いで新宿まで三十分だ。駅から徒歩五分のワンルームアパートに一人暮らしをしている。実家は埼玉だ。通おうと思えば通えない距離ではないが、朝の女性は化粧をしたり髪を整えたり支度に時間が掛かるため十分でも多く時間が欲しい。
直人と知り合ったのは図書館だった。虹子は毎週日曜日に図書館へ通っていた。出版社で働いているのだから本には困らないだろうと思われがちだが虹子の担当は女性週刊誌だ。じっくり本を読むのは休日の楽しみなのだ。直人はそんな虹子をよく見かけたらしく、本を吟味しているところへ話しかけてきた。虹子は驚いたが図書館の椅子で好きな小説家や好きな本のジャンルを話しているうちに直人に心を許してきた。次の週には図書館の帰り二人でカフェに行った。
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