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私にはどうしても会いたい人がいる。だから、今日こそはと昔よく出かけていた場所を彷徨っていた。
そして、ようやく見つけた。探し人であるお兄ちゃんを見つけたのは駅前のショッピングモールだった。最後に会ってから期間が空いていたのと最後に見たときより幾分ふっくらとしていたので勘違いかと思ったけど、隣を歩く男の人が「保人くん」と言っていたので間違いはないだろう。
このチャンスを逃したら次いつ会えるか分からない。電話やメールは反応するのに頑なに会うことだけは拒否されてしまう現状、こちらから突撃するしか手立てはなかった。
自分が知りうる限り最後に住んでいたアパートにはもういなかった。仕事も辞めていて、どこに行けば会えるかが分からず、最後のチャンスをここにかけていた。
お兄ちゃんを含めた3人がバスに乗り込む。私も同じバスに乗り込み、バレないように距離を取りながら座席に座った。
バスはどんどん山の方に向けて走っている。一体どこに行くんだろう……そう思っていると、降車ボタンが押されてお兄ちゃん達が立ち上がった。私も少し時間を空けてバスから降りる。距離を取りつつも見失わないように後をつけて行くと、大きな建物が見えてきた。入口に〈茶座荘〉とある。
思い切ってインターホンを押してみる。すると中から女の人が出てきた。
「こんにちは。今日はどういったご用ですか? 特に連絡は頂いていなかったですよね」
お兄ちゃんじゃない人が出てきてしまい、言葉が出ずに固まっていると、奥から聞き慣れた声がした。
「麻佑、何でこんなところにいるんだ」
お兄ちゃんは私の姿を見ても驚くことなく、どこか怒っているような口調だった。
「えっと……お兄ちゃんに会いに来たんだよ。びっくり……したでしょ」
「で、どうやってここの場所が分かったんだ?」
お兄ちゃんの表情は変わらず怖いままだ。
「お兄ちゃんのことならなんだって分かるよ」
満面の笑みを浮かべて見せたが、何の効果も無かったらしい。ため息と共に厳しい言葉が降ってきた。
「おまえ、バスに乗るところから後付いてきてるのバレバレなんだよ。コソコソとこんなところまでついて来て、何がしたかったんだ?」
なんだ、バレてたのか。それならもう開き直るしかない。
「妹が兄に会いにきちゃいけないの? お兄ちゃん全然会ってくれないんだもん」
「俺のことはもう放っておけって言っただろ。電話とメールで最低限の連絡が取れてるんだから十分だろ」
私とお兄ちゃんのやり取りはここで強制終了となる。
「はいはい、兄妹喧嘩はそこまでにして、とりあえず中に入りましょ、麻佑……さんだったかしら」
女の人に遮られ、中に通される。広い部屋の中央にあるテーブルに備え付けられた椅子を勧められたので、そこに座る。
「窪田さん、3人分のお茶お願いしていいですか?」
女の人の有無を言わせないお願いにお兄ちゃんは渋々台所へ向かった。
「麻佑さん、初めまして。私はここで窪田さんと一緒に生活している、原田愛那といいます。よろしくね」
私の隣りに座った原田さんは笑顔で頭を下げた。私もつられて頭を下げる。
「あ、窪田麻佑です。よろしくお願いします」
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