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「今日は、お兄さんに会いに来た、ってことで良かったんだよね?」
「はい。たまたま駅ビルでお兄ちゃんを見かけて。会うの5年ぶりとかですよ。追いかけたくもなりません?」
「だったらその場で声をかければいいだろ。なんで後をつけるようなことまでして来たんだよ」
お茶を持ってきたお兄ちゃんが私を睨む。
「だって、お兄ちゃん1人じゃなかったし、ゆっくり話なんか出来なさそうだったから」
落ち込む私を見て原田さんが助けてくれた。
「窪田さん、わざわざ顔が見たくて追いかけてきたのよ。そんなに邪険にしなくても……」
ここは原田さんを味方につけたほうが都合が良さそうだ。
「原田さん、分かってくれます? お兄ちゃん、昔はもっと優しかったんですよ。勉強だって教えてくれたし……」
「分かった分かった。で、今日は何しに来たんだ?」
仕方なく、という感じでお兄ちゃんはこっちに向き直った。
「だから、お兄ちゃんに会いに来たんだって」
「じゃあ、目的は達成したんだな。もう帰れ」
身も蓋もない言葉に拗ねることしか出来ない。
「せっかく来てくれたんだからご飯くらい一緒に食べていかない? 私ももっと麻佑さんと話したいし」
またまた助け舟を出してくれたのは原田さんだった。
「えー、いいんですか? じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
「麻佑! いい加減にしろよ……」
お兄ちゃんが立ち上がったタイミングで、さっきお兄ちゃんと一緒にいた2人が入ってきた。この家の持ち主である佐倉浩介さんと仕事仲間の安嶋橙吾さん。2人も私の味方をしてくれ、お兄ちゃんは折れるしかなかった。
原田さんが夜ご飯の準備をするべく台所に向かったので、私も手伝おうとしたら、お客様だから、と追い出されたのでお兄ちゃんの隣に座る。
「お兄ちゃんもここに住んでるの?」
佐倉さん曰く、この家はシェアハウスとのこと。仕事仲間で共同生活しながら仕事をしているらしい。
「ああ、浩介くんは何でも屋をやってて、俺はその社員の1人としてここにいさせてもらってるよ」
「何でも屋? どんなことやってるの?」
「引っ越しの手伝いとか、イベントの運営とか。まあ、俺は力仕事というより機材関係が多いかな。引っ越しだと配線周り整えたり、新しい家電の選別したり、イベントは音響とか」
そう言えばお兄ちゃんは昔から機械の知識が豊富だったし、電機メーカーに勤めていたこともあったんだっけ。
「彼女はいないの?」
「別にほしいと思ってない」
仕事の話は流暢だったのに、恋愛の話になった途端喋らなくなってしまい、そのまま夜ご飯になってしまった。
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