6人が本棚に入れています
本棚に追加
ご飯を食べ終わり、後片付けを手伝っているとお兄ちゃんがやって来た。
「麻佑、そろそろ出ないと帰りのバスなくなるぞ」
まだ帰りたくなくて後片付けをしていたので、手を止めずに続ける。
「麻佑、聞いてんのか?」
「まあ、いざとなったら浩介に送ってもらえばいいじゃない。お酒飲んでないでしょ」
お兄ちゃんの声がまた厳しくなったので原田さんが助けてくれた。あれ、そう言えば、みんな餃子にはこれだとビールを飲んでいたけど、確かに浩介さんはお茶だった。
「あの……もしかして浩介さん私がいるからお酒飲まなかったんですか?」
だとしたら申し訳ない、と思って聞いてみたけど、そうではなかった。
「浩介は飲めなくはないけど弱いから。普段からあんまり飲まないのよ」
それを聞いてホッとしたのもつかの間、お兄ちゃんが私の手を掴んだ。
「これ以上は迷惑になるだろ。さ、帰るぞ」
だけど、私はその手を振り払う。
「やだ。ねえ、今日泊まっていっちゃ駄目?」
「駄目に決まってるだろ。ワガママ言うな」
2人で睨み合っていると、今度は浩介さんが間に入ってくれた。
「まあ、もう時間も遅いし。麻佑さんさえ良ければ、部屋はあるから」
「いや、そうやって甘やかしてばっかりいるわけにはいかないんですよ。お前もうすぐ結婚するってのに外泊なんてしてる場合か? しかも親父と喧嘩して飛び出してきたんだろ。心配してたぞ」
もうすぐ結婚するって話も、お父さんと喧嘩した話も言ってなかったので、びっくりした。
「その話、誰から聞いたの?」
「板前の権堂さん。彼とだけは辛うじて繋がりがあるんだよ。お前が急に俺のところに来るなんておかしいと思って聞いてみた」
良かった。権堂さんならお父さんとの喧嘩の原因までは知らないはずだ。
「まだ家出た目的が果たせてないの。お父さんには電話しておくから、今日1日だけ、お願いします」
真剣な顔で頭を下げると、誰も何も言えなくなってしまった。おそらくこの場の決定権はお兄ちゃんにある、それがみんなの共通認識なのだろう。
「……分かった。家にはちゃんと連絡入れることと、明日には帰ること、これが条件だ」
お兄ちゃんはそれだけ言っていなくなってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!