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「すみません、お風呂ありがとうございました」
お風呂から出てリビングに戻ると原田さんが待っていた。あの後、近所のコンビニで下着と歯ブラシを調達して、それ以外の寝間着から化粧落とし、化粧水や乳液、シャンプーやリンスに至るまで全てを原田さんが貸してくれた。
そのまま空き部屋に案内された。原田さんが部屋を出ていく前に、一言だけ聞いてみた。
「原田さん、ここでの生活楽しいですか?」
原田さんは笑顔で答えてくれた。
「ここは不便なことも多いけど、みんなで支え合いながら生活できてるから、安心感はあるかな」
それだけ言って出ていく原田さんを見送ったあと、1人ベッドに座って今日のことを思い返していた。まさかお兄ちゃんに会えるなんて思っていなかったけど、追いかけてきて良かった。
お兄ちゃんから聞きたいことは大体聞けた。満足のいく話が多かったけど、お兄ちゃんのためにできることはないか、そんなことを考えながら眠りについた。
翌朝目が覚めてリビングに向かうと、原田さんがいた。顔を洗うための洗顔フォームとフェイスタオルを借りて顔を洗い、着替えて再度リビングに戻ると朝ごはんの準備を始めていたので手伝うことにした。
原田さんは手際良くご飯を作っていて、あっという間に2人分の焼き魚と味噌汁、ほうれん草のおひたしが出来上がった。それらをテーブルに置くと、佐倉さんと安嶋さんがやって来て食べ始めた。2人は朝からイベント運営の手伝いがあるらしい。
それから30分後、佐倉さんたちが出ていったあとにお兄ちゃんが起きてきたので、3人でご飯を食べることとなった。
「麻佑、今日いつ帰るんだ?」
「夕方までいさせてもらってもいい? 暗くなる前には帰るから」
そう言うと、お兄ちゃんは「そうか」とだけ言って、ご飯を食べ終えて出ていった。
朝ごはんを食べ終え、食器を片付けながら私は思い切って聞いてみた。
「原田さんはお付き合いしている人とかいるんですか?」
「今はいないよ。ちょっと今はそういうことに興味が向かなくて」
「佐倉さんとか安嶋さんもそういう関係じゃないんですか?」
「あの2人はもう完全に仲間って感じだからね。あ、このお皿そっちにしまって」
何となくそれ以上の話はできなかった。
午前中は、原田さんは領収書の整理、お兄ちゃんはイベントで使う動画の作成をしていた。手伝うことはないかと横から少し覗いてみたけど、何をしているのか全くわからない状態だったので、自分でもできる家の掃除をすることにした。
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