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勢いで飛び出したばいいけど、どうしていいか分からず近くをフラフラと歩いていた。しばらくして、自分の名前を呼ぶ声がした。お兄ちゃんの声だとは分かったけど、出ていく勇気もなく、声から遠ざかるように歩いていた。
そのうち、小高い丘の上にベンチが置いてあったので座って周りの景色を見ていた。お兄ちゃんに無茶苦茶な事を言ったのは分かってる。だけど他にどうしていいか分からず、目をつぶって考えを巡らせていた。
気付くとそのまま寝てしまったみたいで、あたりが暗くなり始めていた。時間を見ようと鞄の中に手を入れるけど、スマートフォンが入っていない。部屋で充電したままなのを思い出した。取りに戻らなきゃ、そう思って立ち上がったときだった。
「麻佑……さん?」
振り向くと安嶋さんが立っていた。ぜえぜえと息が切れる声が届いてくる。安嶋さんの元に向かうと、安心して力が抜けたように座り込んだ。
「無事で良かった。急に出ていったまま家にも帰っていないっていうから捜し回ったんだよ」
そのまま携帯電話を取り出して、探し回っている他の人たちに見つけたことを報告していた。
「みんな待ってるから、家に戻ろう」
私は差し出された安嶋さんの手をゆっくりと握って、お兄ちゃんたちの元へと戻った。
リビングに入ると、佐倉さん、原田さん、そしてお兄ちゃん、みんなが揃っていた。
「馬鹿! みんなどれだけ心配して探し回ったと思ってるんだよ」
お兄ちゃんの怒鳴り声は初めて聞いた。それくらいのことをしたんだと再認識する。
「心配かけてごめんなさい。あと、お兄ちゃんの気持ちも考えずに自分の思いを押し付けてました。原田さんもごめんなさい」
「私はいいんだけど、麻佑さんなりの何か思いがあったんでしょ? 教えてもらってもいいかしら」
そう言って私を椅子の方に促してくれた。原田さんは私が話をしようとしていることを分かった上で、話しやすく誘導してくれているのが分かる。本当に優しい人だ。
「私、昨日お父さんと喧嘩して家を飛び出してきたんです。理由は、私の結婚式にお兄ちゃんを呼ぶかどうかで対立したから。
お兄ちゃん、5年前に家を継がないって言って出ていったんです。だから、お父さんはもう勘当したも同然で、結婚式には呼ばないって。残念だけど仕方ないかなって思ってたけど、違ってたんです。
小さい頃は、お兄ちゃんが家を継いで、私は実家の料亭を継ぐ幼馴染み、亮平さんの家に嫁げと言われてました。いわゆる政略結婚ですけど、それは私の望みでもあったんです。亮平さんは私が昔から憧れていた人だから」
ここからは帰る道中に安嶋さんが教えてくれた情報も加味することになる。私のために調べてくれていたらしい。顔を上げると安嶋さんは大丈夫と言わんばかりに笑顔で頷いていた。
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