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「これから銀行強盗をしようかと思って、と俺は言いました。
たぶん……止めて欲しかったんじゃないかなと思います」
自らの当時の感情を思い出そうとするように男は小首を傾げながら、そう言った。
「俺はその人に強盗の計画を話しました。
その人は、うんうん、と笑顔で頷きながら聞いてくれていたんですが。
最後に、『まあ、やってみなよ』と言いました。
『なんか成功しそうにないけど』って付け足してはいましたが」
……父よ。
止めてやれ。
父はおそらく刑事の勘で、これは上手くいかないだろうとわかっていたのだろう。
「仲間に腰抜けだと思われたくなかったら、引くに引けなかったんですが。
ほんとのところ、俺はやりたくなかったから。
ぐずぐずとその場でやめるための理由を言っていた気がします。
今着てるこれは、お袋に誕生日に買ってもらった革ジャンだから、強盗に着て行きたくないとか。
これで防犯カメラに映ったら俺だってわかるから嫌だとか。
もう待ち合わせまで時間がないとか。
そしたら、その人は、
『じゃあ、僕の服貸してあげるよ』と言って、服を交換してくれました」
……だから、父よ。
止めてやれ。
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