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凍りそうな外で
母が姉と私の前を行き、手にスコップを持ちながら積もった雪に道をつける。
雪かきでは折れてしまうような重い雪。
元々あまり雪が降らないし、降っても寒さが勝つためパウダースノーなので、普通の雪かきか、竹ぼうきで掃けば真冬の雪は楽にどかすころができる。
ところが、桜も咲くころに降る雪はべったりと重く、踏みつけると足の下で固まり、滑る。少しの雪ならそうやって滑りながらでも学校に行っただろう。
しかし、この春は水分を含んだ重い雪の日に大雪が降ってしまった。
父は、元来のお坊ちゃま体質の為、雪かきなど持ったこともない。家の中で母の入れたお茶を飲みながら碁を指している。
農家で育った母は、姉と私が学校に行かれるところまで重い雪をどかして道を作ってくれる。
姉と私は3月も終わりなのに、凍りそうな空気の中、しん と静かな空気の中で、母がスコップで雪をどかす音を聞いて道ができるのを待っている。
母の頭からは汗で湯気が出ていた。
******
昨日から急に雨がやみ、暑くなり、真夏日を観測する地域さえ出ていると天気予報で言っていた。
こんな暑い日になぜ、急にあの寒かった春の雪を思い出したのだろう。
決して体格が良いわけでもなく、体が強いわけでもない母は、色々な病院にかかりながらも、母は働きづめに働いて5年前に82歳で亡くなった。
いつも、この時期には気温差が激しいので体がついて行かないとだるそうにしていたのを思い出す。
きっと、あの雪の日だって大変だったに違いない。
小学生だった私と姉にはなすすべはなかった。
姉と私が次々と子供を産んでいる最中に父が癌で亡くなった後も、一人で店を経営し、心臓のカテーテル手術をした後も退院と同時に店を開けていた。
母は、その生き方から、そしてあの冬のしんとした静かな寒さの中から、働きづくめの生き方の中から、人としての生きる道を姉と私に教えたかったのだろうか。
姉は父の意思を継いだように、スポーツで子供の育成やママさんの教えをしている。
私は母の10分の1も働かずに、父の意思も継がずにのんびりと生きている。
一時はそれで悩んだこともあったが、今は割り切れる。私には私の人生がある。私は私の道を精一杯に歩けば良いのだと、最近やっと思えるようになった。
それでも時々、道を外れてオーバードーズしたりしながら夫に迷惑をかけながら生きている。
せめて、自分の道を外れないように両脇にガードレールでもつけて歩いて行きたいものだ。
【了】
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