作品導入

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作品導入

“地の文の読み上げはCの人物が、客の文はBの人が、ママの文と????はDの人が、彩香の文はEの人がそれぞれ読み上げて下さい” 妙にムードのある、薄暗くもきらびやかな店内。 5人掛けのボックス席が1つ、カウンター席が7席と、広いとは言い難いがそれなりの賑わいをみせる。 パチ、パチ 小気味のいい音が店内に鳴り響く。 人々の視線が自然と音の鳴る方へ向けられる。 そこには、恰幅の良い女性がいてにこやかに手を鳴らしていた。 ママ「さ、盛り上がってるとこわるいけど、そろそろ時間だからねぇ。順番に回ってくからお会計の準備してよね〜?」 客「やなこったぁ!オレぁ準備しねぇぞ!」 ママ「まーたチー坊がなんかいってるよ、ユウちゃんママ電卓やってくるからそれまでその酔っぱらいお願いねぇ」 A「あ、ハイ。」 A「チー坊〜、ねぇ、もう店閉めちゃうからそろそろ帰る準備しよ?」 客「だ〜いじょうぶだいじょうぶ!ここがオレの家だからぁ〜!帰るのは〜、ココッ!」 A「もう〜、チー坊、飲み過ぎだよ!ほら鞄、お財布出して。」 客「なんだぁ!?…ヒック。ユウちゃんもやるなぁ、こ〜んなみんな見てる中で……パパ活のお誘いかぁ〜?」 A「ち〜が〜い〜ま〜す!今日の飲み代です!ほら、チー坊が出してくれないとアタシが鞄漁っちゃうよ?」 客「大胆なユウちゃん〜素敵!え〜?こんなエロい尻しちゃってさぁ〜!」 A「ちょっと!何するのチー坊!」 ママ「コラ、ソコの酔っぱらい!うちはそういう店じゃないんだよ!あんまり調子にのってると出禁にするよ!」 客「冗談だよママ〜!ねぇ、ユウちゃん?」 A「ママー、今日のチー坊の飲み代10倍で!」 客「ちょっ!?ユウちゃん!?」 ママ「100倍は貰っといたほうがいいんじゃない?」 客「ママまで!!」 店内に笑い声がこだまする。 〜〜〜。 〜〜。 〜。 ママ「ふぅ、ようやく帰ったわね。」 静かになった店内に戻る2人。 若い方の女性はテーブルに散らかっているグラスやボトルを手早く片付けはじめ、 恰幅の良い女性の方は在庫を確認しつつ不足品のメモをとりはじめる。 ママ「オツカレ〜、ユウちゃんいつもありがとうねぇ。」 メモを取り終えるとカウンター越しに声を張る女性。 A「あ、お疲れ様です。」 ママ「遅くまでゴメンね。娘ちゃん家でまってるんだよね?」 A「あ、はい。でも多分寝てると思うんで大丈夫ですよ。」 ママ「何いってんの、あとはママがやっとくからユウちゃんはさっさと帰りなさい。」 A「スミマセン、それじゃあ、お言葉に甘えて。」 ママ「何謝ってるのよ、こっちこそよ。オツカレ、明日もお願いね!」 A「はい、お疲れ様です、お先失礼します!」 若い女性は軽くお辞儀をすると上着を羽織り足早に店を後にする…。 ーーーーー。 ガチャガチャ。 しんと静まり返るマンションの一角に乾いた金属音が響き渡る。 カチャリ……。 音をなるべく立てないように扉を開き、女性は部屋にはいっていく。 華美なヒールを脱ぎ、薄暗い廊下を静かに進むとリビングから光が漏れている事に気が付く。 女性はまさかと思いつつその扉を開くと… 彩香「あ、まま、お帰りなさい!」 A「あやか?!」 彩香と呼ばれた少女はてこてこと女性に駆け寄るとぽすりと抱きつく。 A「もう、また起きてたの!?」 彩香「えへへ、だって、ままをお迎えしたくて!」 A「もう…。」 やれやれといった風に、しかし口元を優しくほころばせながら女性は少女の頭を撫でる。 彩香「あのね、あのね!あやかね、お仕事頑張ったままの為におにぎり作ったの!」 A「え?彩香ひとりで!?」 彩香「うん!…それでね…?ままって、お腹すいてる?お腹すいてたら、おにぎり、食べるかなぁって。」 A「えー!嬉しい!もうお腹ペコペコだったの!」 彩香「ホント?やったー!じゃあ、まますわってすわって!」 A「もう、そんなに引っ張ったらまま転んじゃうよ。」 彩香「えへへ!」 A「全く…。」 小さな手にひかれて、テーブル前の座布団に腰掛ける女性。 目の前には小さくやや不恰好なおにぎり、女性が座るのを確認すると少女はパタパタと小走りに冷蔵庫に向かい、子供用ステップを使い冷蔵庫をあさる。 中から500mlのペットボトルのお茶とシンク横からプラスチックのコップを手に戻ってくる。 少女はニコニコと女性の前にコップを置くと唇を尖らせながら慎重にペットボトルのお茶を注いでいく。 お茶をなみなみ注ぐと、ふうっと一息つき、ピカピカな笑顔で女性に向き直り。 彩香「みてみて!あやか、こぼさずにお茶できるようになったんだよ!」 えっへんと得意げに胸をはる少女に女性はこみ上げる感情をおさえとびきりの笑顔で少女を抱きしめる。 A「えらいねぇ!!彩香、ほんと天才だよ!!」 具の無い塩握り、スーパーの買い置きしておいたお茶しかない夜ご飯。 それでも女性にとってはどんな高級ディナーよりも価値のある食事だった。 一口ごとに幸せを噛み締め、明日も頑張ろうと女性は強く心に思うのだった…。 〜〜〜〜〜〜。 〜〜〜。 〜〜。 川の字に並び、お互いに顔を合わせながら布団に入る2人。 流石に少女は今にも夢に落ちそうな様子だ。 彩香「ねぇまま…?」 A「なぁに?彩香?」 彩香「あやかね、ままのこと大好きなの…。」 A「嬉しい、ままも彩香が大好きだよ。」 彩香「だからね…ままがんばっておしごととかね………あやかの……ごはんとかぁ……だから……」 A「うん。」 彩香「あやかもままにいっぱいがんばりたいの……」 A「…うん」 彩香「だからね……ままは、あやかとずっと一緒にいてね……」 A「…っ」 彩香「やくそく………」 穏やかに寝息を立てる少女。 それを見つめる女性。 ずっと一緒にいてね。 少女の言葉の意味を反芻しながら女性はグッと涙をこらえる。 A「大丈夫だよ彩香、ままは彩香とずっと一緒だから…!」 少女の小さなてを優しくキュッと握りながら、女性は眠りに落ちる。 少女のために、また明日も頑張ろう。 少女のために頑張れる大人は、自分しかいないのだから。 そう、決意しながら。
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