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〜 飼い主 視点 〜 ヒメウズラを孵化させてみよう。 そう思ったのは、亡き父親が、 昔…ヒメウズラの人工孵化に成功し、 4羽ほどを育てていた…という記録が、 古いスマホのデータに残っていたのを見たからだ。 丁度父親も20歳の頃、 そして俺も今年で20歳になるから、同じことをしたかった。 最初に準備したのは74cmの衣装ケース。 蓋は細かく丸い空気穴を開け、中に保温電球と湿度用の水入れ、湿度も測れる電子温度計。 全てセットしてから、ネットで卵を購入した。 大寒波の時にやって来た卵、ほぼ冷蔵庫の中にいるような状態で輸送されたのか…。 3時間の転卵や1時間後の温度と湿度を確認するのも虚しく…。 2月11日。 42個の卵から、産まれたのはたった1羽。 それも、ぐったりとして弱ってて… 急いで蜂蜜を溶かした湯をスポイトで与えて、温度に気をつけながら寝る間を惜しんで育てた。 3日間動くことも、歩くことも出来ず… 弱って立てなかったから、いつか歩いてほしい。 そう願いを込めて、フランス語で歩くの意味を込めで マルシュ ゙と名付けた。 マルちゃん、と呼びながら毎日毎日触って、可愛がって、人間大好きに育ったこの子に、 仲間を与えてあげたい。 いつか親になるかもしれない…。 そう思って、今度は孵化器をちゃんと買ってから、 1ヶ所から卵を購入し孵化させた。 12個中4羽が孵化したけど…。 なんとなく数のバランスが悪いと思い、 次は孵化率の高い二名から其々卵を購入させて貰った。 そこで生まれたのは3月17日、 今度は10羽が一気に孵化した。 流石にやばい、名前がそろそろネタがないと…トランブに関する名前をつけていったが、 1羽だけ、明らかに初めて見る毛色の雛で悩んだ。 エース、スペードはいる…、なら……。 恐竜っぽい柄だったから、ティガレックスから取っで レックス ゙と名付けた。 マルシュが生まれて丸々1ヶ月後。 全15羽のヒメウズラが、俺の新しい家族となった。 これはもう、卵を期待するしかないな!! そういつか来る卵、その後の孫を見る為に日々お世話をしていたのだが…。 ヒューー!と高い声で鳴くオス鳴きが始まった3日後。 4羽孵化した中で、1番小さくてチビの゙チー ゙と名付けてた個体が、理由もなく亡くなった。 突然死で困惑してたけど、残された子達の世話があるから落ち込めなかった。 そしてこの中にメスが2羽、オスが1羽いるが… 明らかに仲が悪い。 なら、10羽が一緒に暮らしてるところにいっぺんに入れちゃえ☆と思って、 ついでにマルシュも入れて、14羽で過ごさせた。 これが、悲惨。 マルシュは逃げ惑い、 縄張りを主張するオス鳴きは激しさを増し、俺は寝不足。 メス同士も気に入ったオスがいるのかケンカ勃発。 マルシュをイジメたり、仲が良かった?はずの10羽も争うようになって… 考えた。 「 うん、分けよう 」 選別は余りしたくないのだが、することにした。 まずオス、好きな羽色であったゴールデンパールのスペード、ペンギンのような柄であるシルバーパイドのジョーカーは残すことにして。 ホワイトのダイヤとテン、シルバーのシヴァ、よく分からん色のレックスは俺にとって ゙ 必要のないオス ゙と判断して、一緒のケースに入れていた。 丁度、写メを取って里親募集をかけていた頃。 ダイヤがオス鳴きをする度に反応する同じホワイトのメスがいることに気づいた。 別の人から貰った卵から生まれたシルキーである。 なら、こいつ等は一緒にしてやろう…と思い ダイヤとシルキーは夫婦として別のケースに移動させ、 2羽で飼うことにすれば、すぐに仲良さそうな姿を見せ、微笑ましくなった。 直ぐにキュアは里親が見つかり、シルバーのシヴァと謎色のレックス。 オス部屋として放置していれば、発情してるシヴァに追い回され、交尾すらされかけてるレックスに、笑えるほど面白かったが… 同時にシヴァの性格にイラッとしたのが本音だ。 多い場所に戻しても、他のメスも手当り次第に追いかけ回し、首やらに血が出るほどの怪我をさせ…。 メスは逃げ惑い、そしてメス達を守っていたスペードやジョーカーに怒られ、追われる始末。 「 悪いな…。責任は取る 」 俺は、泣きながらシヴァの首を絞めて…殺した。 家禽を育ててる人達が、余分なオスは殺して食べるのと同じこと。 殺した後、飼っている蛇の餌にしたんだ。 ごめんな、そう何度か呟いてからヒメウズラ達の元に戻る。 残すところはレックス。 1羽〆たら2羽目も同じ…。 そう思って、細い首に手をかけた。 苦しそうに口を開き、瞼を閉じる様子を見て、もう少しで楽になるから…。 そう思っていたが、レックスは抵抗して逃げた。 必死に生きようとする姿を見て、もう一度チャンスを与えた。 10羽の中に入れ、マルシュも入れ、様子を伺った。 けれどシヴァの様に手当り次第に追いかけ回す事もなく、只1羽だけを少し離れた距離で着いて歩くのを見て思った。 マルシュが好きなのだろうか? ヒメウズラはオスもメスも、お互いに好きな個体を選ぶ。 なら、レックスは他のヒメウズラに相手をされなかったマルシュが好きなのか? そう考えて、2羽を一つのケースに移して飼うことにした。 ヒメウズラ相手に逃げていたマルシュが逃げる素振りもなく、 レックスは無理矢理交尾を迫ることも無い。 見守ったり、嘴に付いたご飯を取ってやったり、 俺がマルシュを触ってる時に怒るように低くホー……ホー…と鳴く程度。 ヒュー!!と甲高い声で鳴く事が無くなった。 そう、12羽のヒメウズラはよくネットで書かれる…オスがうるさい!ってことが全く無くなった。 鳴き声を上げもせず、平和な日常に… 俺は今日も、シヴァやチー、他の産まれて来なかった子達にお線香と餌を上げてから、 産む卵を楽しみに過ごす。 マルシュとレックス…この夫婦だけは卵をまだ産んでないが、他の個体は毎日産み始めて、 1日5個が平均して産む。 それを今度は孵化器で温めてるけど、 俺はマルシュとレックスの子が知りたい。 そして、レックスの羽色が日に日に綺麗になっていった。 まばらで薄汚かった羽は、いつの間にかくっきりとして腹側の赤が映えて、堂々とした態度はかっこいいものがある。 殺さなくてよかった…そう思うが、レックスには嫌われてることも知ってる。 まぁいいさ…。 御前にはマルシュを託してるんだから、仲良く過ごしてくれ……。
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