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やっと朝の騒がしい時間が無くなり、
落ち着いてゆっくり出来ると思って背伸びをしていれば、入り口を眺めていた妻は諦めてこっちへと来る。
「( おっ……。っ…だろうな… )」
俺を眼中にせず、巣の横にあった砂場へと行けば、砂浴びを始めたのを見て、それを眺める。
「 ふふんっ、綺麗にしましょー 」
「( 可愛い… )」
砂浴びが好きな妻が、いつも身なりを整えてるのを見て可愛いと思う。
全部、ニンゲンの為だとは知ってるがな…。
「 俺も一緒に…砂浴びしていいか? 」
少しだけ距離を縮めたいと思い、巣から離れて近づいて問えば、大きな瞳は俺を見てから、砂へと背を付け仰向けになる。
「 えぇ、だめー。私が綺麗にしてるから 」
「 っ……。いいじゃないか…… 」
心臓が締め付けられるほどのあざとさに、少しうっと喉が締まるも、ゆっくりと中へと足を踏み込めば、妻は起き上がって横へと寄る。
「 じゃいいよ、ちょっとだけ分けてあげる 」
「 ありがとう… 」
余り砂浴びはしないが、たまには悪くないと思って羽を動かそうとすれば、砂が飛び散らないように四方が囲まれたこの場所で、妻の身体と当たれば、身体は自然と熱くなる。
「 っ!!( 平常心…平常心 )」
「 ふふんっ 」
妻は只でさえ、他のヒメウズラが苦手なのに…
ここでがっつけば、逃げ回って天井に頭をぶつけて、怪我をするかもしれない。
そんな事になれば、各自に俺は…
あのニンゲンに殺される…。
「( あの時の光景を思い出したら…冷静になってきた… )」
俺に寄ってきたオスとは言えど、目の前で顔見知りが殺され、俺自身も首を絞められたことがあるのだから、下手なことはできない。
特にニンゲンも、マルシュを気に入ってるからな…。
「( 俺が何もしないから…一緒にいられるだけで、怪我させたら…確実だろうな… )」
横で毛繕いしてる妻へと視線を向け、少しだけ切なくなっていれば、こっちの雰囲気とは関係なく…
お隣のバカップルは、急に騒がしくなる。
「 ねぇ、ダーリン。エッチしましょう?プピピピッ… 」
「 おっ!いいなぁ、しようか!ホー! 」
目に見えるようなハートが飛び交う光景に、胸焼けを起こしていれば、妻は隣の家へと顔を向けてから、俺の方をチラ見してきた。
「 レックスも……あんな風にしたいって思うの? 」
「 は?え…あ……。そうだな… 」
急な質問に困って、逃げるように砂場を出てから、床材が敷かれた部屋の方に行き、視線を泳がせる。
「 したくないって…言ったら嘘になる。折角…俺達は夫婦として、認識されてるんだ。子供とか…な 」
どんな羽色の子供が生まれてくるか分からない。
それでもきっと可愛いだろうと思うから、必死に嫌われないように言葉を選べば、ちょっと抜けてる妻は、砂場から出て来ては傾げる。
「 あれ?レックスは…てっきり、シヴァ好きなのかと… 」
「 は……はぁ!?なんで、俺があのオスを好きってことになってんだ!? 」
言われた言葉に驚いて、妻の方へと視線を向ければ、その疑う様子もなく真っ直ぐな目を向けてきた。
「 だって…その、隣の家で…ヤッてたから… 」
「 いや!誤解だ!!み、未遂だし、俺は別にアイツに掘られてない! 」
少し前の、一人部屋だったマルシュの隣は、オス達のルームシェアで暮らしていた家だった。
ここより少し広かったが、逃げ場や隠れる場所もなかった為に、休んでいても見つかって、捕まえられて背へと乗ってきていた。
゙ レックス、俺とヤろうぜ。どうせ…もう二度と、メスと出来ねぇんだろうからな! ゙
゙ ふざけんな!!俺には好きな子がいるし、テメェみたいに見境無く誰でもいいわけじゃないんだよ!! ゙
確かに…もう二度、マルシュには会えないかもしれない…。
そう思っていたが、彼女の声が聞こえるだけでよかった。
だから背中を許して、発散する為だけの受けにはなりたくなくて、喧嘩していた。
俺からは手を出すことなく、一方的にやられて怪我をしていれば…ニンゲンは、シヴァを掴んだ。
゙ やめ、ぐる、っ……!! ゙
゙ !!! ゙
目の前で、喉がへし折れる音がして…。
全身の血の気が引いて固まっていれば、次にニンゲンの手は俺を掴んだ。
嗚呼…殺される…。
そう思い、苦しくなる呼吸や酸欠の脳に抵抗力も無くしていれば、遠くから聞こえてきた。
゙ パパ!!助けて!!いや、いたい、やめて! ゙
゙ 余所者が!!私の夫に色目使うんじゃないわよ! ゙
゙ そんなこと、してない……!やっ、いっ…! ゙
色んな奴等と一緒にいたマルシュが、イジメられてる声を聞いて、その手を振り払うように飛んで逃げて、その家に入った。
゙ ゴホッ…ゴホッ、マルシュ……。姐さん達…止めてくれ…その子が嫌がってる… ゙
゙ アンタのお気に入りなら、アンタがちゃんと見張ってないよ! ゙
゙ わか、った…… ゙
姉達の怒りを沈めて、軋む身体や息苦しくて頭の痛む脳をなんとか動かして、マルシュがイジメられないように見ていれば、ニンゲンは先にマルシュを連れて行った。
゙ っ…!その子を殺す必要はないだろ!? ゙
殺される!そう思って怒れば、今度は俺も掴まって、移動させられた。
゙ は?? ゙
゙ あ、レックス!今日から、二人部屋になったみたい! ゙
殺されるのではないのか…。
状況が把握できなかったが、俺達は隣の白い夫婦と同じように過ごす事を言われたんだと察した。
マルシュは分からないだろう…。
「 だが、俺は…ずっと君と一緒にいたかったから…。誰にも…触れてないし、ヤッてない。マルシュ…君がいいんだ 」
「 ………レックス 」
嫌がることはしない…。
そう思って、ハッキリと態度に出していれば、少しだけ照れたようなマルシュは、初めて姿勢を低くした。
プピピピッ…と控えめに鳴く姿を見て、心打たれた。
「 マルシュ……俺を受け入れて… 」
そっと近づいて首元の羽根を噛んで、背中に乗ろうとすれば扉開く。
「 あ、パパ!! 」
「 ゲフッ!!ッ〜〜……( 許さねぇ…ニンゲン… )」
いい雰囲気の時に限ってやってくる為に、顎へと頭突きを食らって固まっていれば、ニンゲンの手には、他の家から回収した卵があり、それは俺達の家にある巣と似た場所に置かれていた。
あれは…他のニンゲンに渡して、孵化させるやつたらしい…。
「 パパ〜、遊ぼー? 」
「 ホー…ホー…!( マルシュは俺のだろ! )」
ニンゲンの手の平で触れられて喜ぶ姿を見て、嫉妬して威嚇していれば、すぐにマルシュは戻ってきた。
「 えーもぅ、終わり?なんでー? 」
「( さっさとどっか行け )」
やっぱり…
あのニンゲンは、嫌いだ。
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