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夜になると、鳥目の鳥達は静かに眠りにつく…。
はずなんだが…。
「 今日こそ、パパの部屋に!! 」
「 待て待て待て。その姿はまずいだろう 」
「 え?なんで? 」
俺の妻は、寝る時間だというのに張り切ってヒメウズラ特有の羽を広げて舞いを披露し、
ヒメウズラの神様にお祈りをしてから、其の姿を変えた。
一部の鳥だけが行える、ニンゲンの姿を一時的に得るやり方だが、家を出て行った背中を追いかけて、
俺も気に入らないが…ニンゲンの姿を得る。
「 ニンゲンは…俺達が、この姿になれるのを知らないんだ。流石に良くない 」
いつも居る家とは違い、一歩外に出ると空間はとても広く思っていたのだが…
その姿を得ると、広すぎるわけでもないように思える。
そんな事よりも、夜這いに似た事をしようとしてる妻を止めれば、他のヒメウズラよりも小柄な彼女は、疑問符をいくつも浮かべた。
「 なら、教えてあげたらいいじゃん。パパのマルちゃんだよーって! 」
「 はぁー…忘れてのか。ニンゲンにバレたら…俺達、もう二度とこの姿を得ることは出来ないんだぞ 」
「 はっ……! 」
ヒメウズラの神様が言ってた言葉を思い出した妻は、ハッとした後に分かりやすく膝を付き両手を畳の上へと置く。
「 折角…パパと同じニンゲンになれるのに…。バレたらいけないなんて… 」
「 あくまで、ニンゲンの姿を楽しむだけの仮初めの姿だからな… 」
妻にとって辛いかも知れないが、俺も…妻のこの姿を見れなくなるのは寂しいものがある。
水色かかったグレーの髪をし、金色の瞳を持ち、色白の肌した姿は…。
鳥の姿と同じくらい、可愛いと思う。
「 ちぇっ… 」
「 …此処は寝てるやつもいる。少し出るか? 」
「 ん?うん… 」
鍵の閉まってない網戸を開け、この部屋と繋がるバルコニーの方へと行き、
ニンゲンがよく使うソファや机を横目で見た後に、手摺りへと片腕を乗せる。
「 ふぁっ……!星がキレイ…! 」
夜空を見上げる妻の横顔を見詰め、小さく笑みをこぼす。
「 嗚呼、綺麗だな 」
丸みを帯びて太った姉達とは違い、いつまでも可愛くて綺麗なマルシュを眺めていれば、彼女は俺の方を向き、無邪気な笑顔を見せる。
「 うん!キラキラしてる! 」
ニンゲンが、只の岩…なんて言ってた星だが、妻が笑顔になるなら、悪くないなと思うんだ。
「 あ…。流れ星…!お祈りしよ 」
「 ………何を願うんだ? 」
なんとなく想像がつくが、少しだけ目を閉じた妻へと問えば、彼女は心の中で願った事を口にする。
「 いつか、パパのお嫁さんになりたいって…お願いした 」
「 っ………( やっぱり…ニンゲンか… )」
分かっていた…。
マルシュは俺の事が特別に好きなわけじゃない。
俺が、他のオスとは違って…
交尾にがっつかないから気を許してるのであって、もし…そういった事になれば嫌いになるだろう。
それはニンゲンも知ってることだ。
マルシュを追い掛け回さないから、一緒に居させてくれてる。
夫婦というのは、ニンゲンが言っただけで…。
本当は、只の…喧嘩をしないオスとメスってだけだ。
「 レックスが、願うとするなら…何をお願いするの? 」
答えが分かりきったような問い掛けに、手摺りから腕を外し、目に掛かる黒髪の前髪から視線を向け、告げる。
「 …俺達の子が欲しい。それだけだ 」
「 !!私…パパが大好きで… 」
知ってる…。
最初から、知ってるけど…。
種族の違うニンゲンではなく、同じ同族を見て欲しいと思うんだ。
「 チッ……… 」
「 !? 」
我慢の限界で、手を伸ばしその華奢な肩を掴んでは、手摺りへと押し付けていた。
「 アイツはニンゲンで、御前はヒメウズラ。俺と同じ…鳥なんだ。なんで…あんな…奴がいいんだ! 」
少しだけ声を張って言えば、マルシュは目に涙を溜め、俺の胸元を細い手で押し返す。
「 レックスには、分からないよ…。生まれた時から10羽の兄妹がいて…。お喋りしたり、遊んだりしてた。でも…私には、生まれてからずっと、パパが一緒にいてくれたんだよ!? 」
「 繁殖して欲しくて、俺と一緒にさせたアイツは、御前の未来を考えてんだ! 」
「 私の未来なんて…パパと一緒に過ごせればそれでいい!! 」
「 ………… 」
泣かせる気は無かったのに…。
マルシュの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
肩を震わせ、その場にしゃがみ込んだ彼女へと視線を落としては、そっと膝を付き頭に触れる。
「 ニンゲンと…たった5年前後しか生きれない鳥とでは…。残されたニンゲンの方が悲しむ…。マルシュの子供が見たくて…、俺と一緒にさせてるんだ…。俺が嫌なら…他のオスでもニンゲンは許すさ 」
落ち着かせるように頭に触れていれば、彼女は泣きながら顔を上げては、俺の襟元を両手で掴んで首を振った。
「 やだ…!他のオスは、嫌…。怖いし…髪とか引っ張ってくるから…。オスなら、レックスがいい… 」
無理矢理交尾を迫れば、其れだけ強く噛み付く必要があるのは知ってる。
メスは相当痛くて、俺の姉もシヴァにやられて首周りが血だらけになるほどに怪我させられたのを見たことがある。
姉はエースを気に入ってた為に、シヴァを本気で嫌がっていた…。
そしてマルシュも、他のオスから逃げる回ってるのを知ってるから…俺が選ばれたんだ。
「 すぐじゃなくていい…。ニンゲンばかり見るんじゃなくて…たまには、俺の方も見てくれ 」
触れる程度に目元へと口付けを落とせば、マルシュは少しだけ頷いて、濡れた目元を拭く。
「 部屋に戻ろう 」
「 ん……… 」
それから、マルシュは分かりやすく
俺を避けるようになった。
………見て欲しいと言ったのに、
避けるとは…。
ちょっとがっつき過ぎたか……。
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