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俺は中小企業で働く普通のサラリーマン。 彼女はいない。そして、自炊派だ。 今日は休日。 家で昼飯を作っている。 「うーん、替え時かな」 使っているフライパンが焦げやすくなってきた。 3000円くらいのダイヤモンドコートのフライパンを1年くらい使っていたのだが。 昼飯をすませ、フライパンを買いに行くことにした。 大きめのスーパーへ歩いて行く途中、道の端にフライパンがあった。 古くはなくて、見た感じは新品同様に見える。 「買った人が落としたのか?」 しばし立ち止まったが、落とし主は現れない。 「仕方ない。交番に届けるか」 フライパンを持つと、ビカーッ!と眩しい光が。 「うわっ!?」 「迷い人よ」 「え?」 目を開けると、見知らぬ空間に立っていた。 「あれ? ここは?」 「これこれ、迷い人よ」 「え?」 声がしたほうを振り返ると、まるで女神様のような容姿の女性が立っていた。 「迷い人よ」 「あの、別に迷ってはいませんが」 「ここが何処か分かるとでも?」 ぐるりと見渡すと、見渡す限り何もない空間みたいだ。 「まったく分かりません」 「ここは天界です」 「てんかい、それは神様や女神様がいる」 「その通り」 「あの、どうして俺が天界に」 「迷い人よ、そなたが拾ったのは、この金のフライパン? それとも、オリハルコンのフライパン?」 人の話を聞かない女神様だな。 しかし。何もない空間から金のフライパンとオリハルコンのフライパンを出しやがった。 どうやら本当に女神様かもしれない。 夢や幻覚かもしれないけど。 「いえ、普通のフライパンだと思います」 「ファイナルアンサー?」 「ファイナルアンサー」 「正解」 「ですよね」 「正直者のそなたには、魔法のフライパンをあげます」 「ありがとうございます。じゃなくてですね」 「それでは、元の世界に戻します」 「あ、それは助かります。うわっ!?」 またビカーッ!と眩しく光った。 ピピピッ ピピピッ   グオーン! ギャオーッ! いや、待ってね。何か鳥や猛獣とかの鳴き声みたいなのが聞こえるんだけど。 目を開けると、そこは山の中だった。 ギャオーッ! おい、女神様よ。ここは何処ですか? そして、右手にはフライパンが。 「これ、魔法のフライパン? まさかな」 『いえ、本当に魔法のフライパンです』 「え? フライパンが喋った?」 『魔法のフライパンなので』 「……へー。流石は日本だよな。会話ができるフライパンが開発されたんだ。どこのメーカー?」 『いえ、私はメイドイン天界です』  「面白いジョークだ」 ギャオーッ! 何か、ギャオーッ!って鳴き声がどんどん俺の方へ近づいて来てるんだけど。   ギャオーッ! 「……魔法のフライパンさん」 『私の呼び名はフライで』 「分かった、フライ。あのギャオーッて鳴き声は何か分かる?」  『あの鳴き声は、惑星アテラスに住むレベル5クラスの魔獣で、デスロンかと』 「え?」 ギャオーッ! 『見えました』 「うわっ!?」 『やはりデスロンです』 ギャオーッ! いや、待って。何だよあれ、大きなヒグマより大きいぞ。3メートルくらいあるぞ。 『マスター、どうします?』 「どうしますって、どうにかなるのか?」 『はい。私で殴ってください』 「はい?」 『フライパンの私で、デスロンを』 「フライで殴って倒す?」 『さっきからそう言ってます』 「いやいや、無理だろ。あれ? デスロン、襲ってこないぞ」 『私がバリアしてますから』 「え? それは凄いな」 『ありがとうございます』 「じゃあ、とりあえずは安心なのか」 『あと1分くらいですが』 「え?」 『今のマスターのレベルでは、デスロンを止めるバリアが1分くらいしか持ちません』 「おい」 『はい』 「魔法のフライパンなら殺人ビームとか出ないのかよ」 『今のマスターのレベルでは無理です』 となると、レベルが上がれば出るのか。 いや、今はそれよりもデスロンだ。 「……俺は格闘技も剣道もやってないし、殴って倒すとか無理だ」 『私がマスターの身体を半分制御してデスロンの攻撃を避けますから、マスターは私で物理的攻撃をしてください』 「え? そんなことができるの?」 『できます』 「本当に?」 『はい』 ……どっちにしてもフライを信じるしかないのか。
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