08 世界一の技術力

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08 世界一の技術力

「――あ~、スッキリした~!」  何とも言えない開放感。我慢していた分スッキリも倍増だ。 「とても国王様の前での会話とは思えん……」 「全く同感だ。それじゃあ一抹の不安が解消された所で話を戻そうか」  俺とエドに向けられた周りの視線が少し気になったが今はそれどころじゃない。 「それでは話を進めるとしようかの。結論……今しがたエドワードから受けた報告によると、まだ仮説段階ではあるが専門家達からアンドロイドという提案が浮かび、偶然にもそれを実現させる可能性がジンフリーによって生まれたという事じゃな」 「恐らくそう言う事かと思います。先程も申し上げましたが、詳細についてはまた専門家達から話をして頂きますが、研究所の者達もまだこの事態を知りませんので……」 「そうじゃな。誰にも予測が出来ぬ以上、速やかに行動する他ない。エドワードよ、手間を掛けるが直ぐに研究所の者達を呼んでくおくれ」 「かしこまりました」 「ジンフリー。其方も良いな?」 「勿論です」  それから、エドワードを含めた騎士団員や城の家来達、そして研究所の関係者等々……。城内に人が集まるにつれて一層慌ただしくなっていった。 ♢♦♢  体が大きく揺らされ、それと同時に響いてくる大きな声。意識と視界がぼんやりした状態から、一気に現実に引き戻された。 「――……い……おき……! ……って……ッ! おい!起きろって!」 「んお……?」 「おい!お前良くこの状況で寝られるな」  呆れた表情でエドに起こされた俺。  あれから全員が何やら慌ただしく動き始めたが、何をすればいいか分からない俺は取り敢えず座って待っている事にした。そして気が付いたら寝ていた。そして気が付いたら今エドに起こされている。そして気が付いたら……辺りに結構な人数の大人が集まっていた。  成程。流石手際の良いエドだ。フリーデン様に言われた通りもう関係者を集めたみたいだ。 「よし。やっと準備が整ったな」 「ふざけんじゃねぇ! お前マジでどういう神経してんだよ!」 「取り敢えず落ち着け。もう言い争ってる暇はねぇ」 「……」  そう言った俺に対し、エドはまるで虫でも見下すかの如く、それはそれは冷酷な視線だけを残し去って行った。  しょうがない……。  もう少しだけ真面目にしていた方が良さそうだ。  皆が動き始めて30分くらいか。この短時間でこれだけ人が集まって緊張感があるという事は、つまりそう言う事。やっぱりそれだけ事態が深刻って事かな。  そんな事を思いながら、俺も周りの人達と同様に椅子に座った。そして何十人という人が腰を掛けている大きなテーブルの1番奥から、フリーデン様が皆に話し始めた。 「――皆の者、急な呼び掛けに対応してくれて感謝する。早速じゃが、新しく出たアンドロイドの件についてと、今起こっているジンフリー・ドミナトルの件について早急に話を進めていきたい」  フリーデン様の言葉で、話し合いはどんどん進んでいった。  アンドロイドについての詳細や今後の可能性、そして俺の現状等を語り合った。多くの人間が意見を出し合い語り合い紡ぎ合っている。理解出来ない難しい言葉や理論が飛び交い、恐らく何時間にも及ぶであろうと思われたその話し合いは、なんと僅か15分程で突如幕を閉じた。 「――それでは結論、“アンドロイドを作ってジンフリー・ドミナトルに魔力を使わせる”という事で決定じゃな?」 「「異議なし」」  ………………は??  今回は間違いなくしっかり起きていたのにサッパリ分からない。一体今何が何処からどうなったの? え? これで話し合い終わり? え? 命の危険があるかもしれないのに俺が魔力使うって事で決定したの……? どういう事?  そして1週間後――。  何故か俺の目の前にはアンドロイドが立っていた――。   「……早過ぎません?」 「何が?」 「何がって……色々と全部が」  これは俺の感覚が可笑しいのか?  あの話し合いからもう1週間……いや、まだ1週間と言うのが正しいだろう。  これはある意味、満月龍の血を勝手に飲んでしまった俺への罪なのか、話し合いの時から1度も俺は意見を述べてねぇ。というより、させてくれる暇すら無かったよな……。いつの間にかアンドロイドは作る方向に決まるわ俺は満月龍の魔力使う方向に決まるわで凄い事になってるぞ。  俺が意見言える立場でないのは重々承知の上だが、それを差し引いたとしても流石に可哀想だぞ俺が。一言ぐらい言わせてくれてもいいだろ。 「そりゃあ早いに越した事はない。お前にとっても王国の未来にとってもな」 「それは分かるが、まだ俺は気持ちの準備すら出来ていないぞ。それなのに何だこの状況は」 「気持ちの準備も何も、1週間前に決まった事だろ。専門家達の話し合いでもうコレしか選択肢が無いって結論に至ったんだから」 「仮にそうだとしてもよ、アンドロイドなんて超高等技術だろ? 詳しい事は勿論分からねぇが“普通”何か月とか何年って掛かる物じゃないのか?」 「普通ならな。だがそれではリューテンブルグ王国の科学技術力が世界一とは呼ばれない。普通じゃないから世界一なんだ」 「本来なら誇れる所だけどな。今はその世界一の実力によって庶民が1人犠牲になろうとしてるぞ」 「――さぁ、準備は整ったかの?」  俺のそんな心配を他所に、目の前では着々と事が進んでいっている。先の話し合いと同じかそれ以上の人が集まっており、皆言わずもがなこれからの展開に期待している様子。  それは分からないでもねぇ。  だって今から前人未到の未知なる世界に1歩歩み出そうとしているんだからな。大の大人にも関わらず胸が高鳴るのは頷ける。俺だってそうだと思うぜ。  アンタらと違って“こっち側”じゃなければな――。 「こちらは準備OKです!」 「アンドロイドも異常なし! 数値安定しています」 「よし。そのままナノループを起動させよう」  さっきも言ったが、俺の目の前には何故かアンドロイドが立っている。そしてそのアンドロイドの体からは複数の管が伸び、繋がれた先には何処かで薄っすらと見た覚えのあるゴツイ機械が繋がれていた。     もう始まったのだろうか。  そのゴツイ機械がウィィィンと如何にもな機械音を発しながら動き始めた。色んな箇所でランプが点滅したりメーターの針が動いたり突如煙みたいなのが噴き出したりと、なんだか機械も大変そうだなと思った。  そんなこんなで機械が動き出す事数十秒。今度はアンドロイドの体が急に輝き出したように見える。   「――数値に異常なし。これで全起動完了です!」 「了解。フリーデン様、準備が整いました」 「そうか。では始めてくれ。ジンフリーよ! 後は専門家達の指示に従ってベストを尽くしておくれ。死ぬでないぞ」  何だその応援の仕方は。恐ろし過ぎるぜフリーデン様よ……。  言いたいことは山ほどある。山ほどあるがあり過ぎて逆に面倒くせぇ。もういいよ。どうせここまでやっておいて今更俺が“やらない”って言っても誰も聞かねぇだろ。寧ろ冗談でも口にしたらキレられそうだし。考えれば考える程に不思議な展開。  そして結局、俺は“何を”すればいいんだ?
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