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01 深夜の誤飲
――ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……キュポン……!
「……んぁ? 何だ、もう無くなっちまったのか。……しょうがねぇ」
俺は部屋の床に散らばった金貨を鷲掴みし、酒を買いに行く為仕方なく重い腰を上げた。動くのは面倒だが酒は欲しい。酒は欲しいが動くのは面倒。下らない事が頭をぐるぐる駆け巡っているが、それでも体はちゃんと動き出し、覚束ない足取りで家を出た。
「寒ぃ……冷えるな」
もうそんな時期か。ったく、いい感じに酔いが回ってたのに一気に醒めるぜこれは。
辺りは真っ暗。外は街灯が幾つか点いている程度。深夜だから当たり前だな。出たはいいが、こんな時間に店やってんのか? 俺は分かりつつ何時も酒を買っている酒屋を見たが、当然の如く真っ暗で閉まっていた。
そりゃそうだよな。こんな時間にやってる訳ねぇ。ん~……仕方ない。どうせ寝付けないから少し酒でも探しに行くか。肌寒い真っ暗な街の中、俺は体を温める様に両腕を組みながら背中を丸め、当てもなく街を歩き出した。
所々部屋に明かりが点いているのが確認出来たが、やはり酒屋どころか小さな店1つとして開いていない。
いつの間にか城の近くまで来ちまったな……。流石に店も開いてないし販売機にも肝心の酒がねぇ。どうなってんだよこの王国は。酒だって水と同じぐらい手軽に買える様にしとけよ。無いと余計に欲しくなるぜ。
全然納得いかないが諦めるしかねぇ。
俺は仕方なく家に帰ろうと体の向きを変えた瞬間、道の奥に動く明かりを見つけた。明かりの正体はトラックのライト。エンジン音と共にゆっくりこちらに近づいてくる。日中は全く気にならないが、辺りが静寂に包まれているせいかそのエンジン音がとても響いて聞こえた。
「こんな時間に働いてるとはご苦労なこった……酒積んでねぇかな?」
そんな事を思いながら歩く俺の横をトラックが通り過ぎて行く。
――キキィィ……!
ん? 何だ? 通り過ぎて行ったかと思ったそのトラックが突如急ブレーキを掛けた様に止まった。すると運転席の
窓が開き誰かが俺の方を見てきた。
「……ジンか?」
辺りが暗くライトも逆光になって顔がよく見えない。だが確か聞き覚えがある。久しぶりに聞いたにも関わらず、前と何ら変わらない呼び方と声色で、俺はそれが誰なのか直ぐに察した。
「エド……?」
「やっぱりお前か! こんな時間何してるんだ? しかもこんな場所で」
ドアを開けて降りて来たのはエドワード・ヴォルグ。俺の昔からの友人だ。そして同じ騎士団でもあった。成程。よく見りゃ車体に紋章が付いてる。王国の運搬車だったのか。
「頼むぜエド。酒ぐらい販売機にも入れとけっての」
「相変わらず酒臭いなお前……小汚い格好でふらふら歩いてるから今時ホームレスでもいるのかと思ったぞ。まさか酒探しにここまで彷徨ってたのか?」
「それ以外出る理由がねぇだろ」
「ったく……何しているんだよ。未成年でも買える販売機に酒なんか置く訳ないだろ。子供でも分かるぞ」
「これ酒積んでる?」
「積んでない。これは王国が管理する超機密な貴重品だ」
「へー。ゴミか」
俺がエドと話していると、トラックから騎士団員の1人が降りて来た。
「エドワード“大団長”。本部からです」
「ああ、ありがとう」
本部と繋がっているであろう通信機を受け取ったエドは何か話をし始めた。
大団長か……懐かしい響きだな。それにしても、こんなデカいトラックで本当に酒の1本も積んでねぇのか? よし。まだ話しているみたいだから確認だけしてみよう。俺は静かに後ろの積荷の扉を開けた。
すると、中にはよく分からないゴツイ大きな機械や装置みたいな物が積まれていた。他にも家具や食料品といった小物が数々。
何だこれ。マジでどうでもいい物ばっかじゃねぇか。何でわざわざ王国の運搬車で運んでるんだよ。しかもこんな時間に。あ~あ……面白い物でも積んでれば幾らか気晴らしになったのに……って、ん? あの奥にあるの……もしかして“酒”じゃねぇか⁉ おいおい、本命があるじゃねぇかよ! これだよこれ。
ラッキーな事に酒を見つけた。
しかもその酒は何やらクリアな箱に入れられ、トラックに載っている大きな機械と繋がれていた。
「冷蔵庫にしてはデカ過ぎるだろこの機械。しかも入ってるのはこの酒1本だし冷えてもない。何に使うんだよこのデカい機械は……まぁ酒見つけたからいっか。 王国の運搬車に載ってこんな厳重に積まれていたとなれば、余程貴重な酒らしいな。こりゃ飲むのが楽しみだ!」
俺は酒を懐へと忍ばせ、何事もなかったかの様に積荷の扉をそっと閉めた。エドもタイミング良く話が終わりそうだ。
「――はい、分かりました。それでは」
「忙しそうだな」
「別に大したことはない。それじゃあなジン。荷物を城へ運ばなきゃいけないからもう行くぞ」
「ああ。頑張れよ」
「何だ? 心なしか嬉しそうな顔してないか?」
やべ。酒を見つけてついつい顔が緩んじまった。
「す、する訳ねぇだろ。疲れてんだよこっちは」
「まぁ何でもいい。お前も早く帰れよな」
言われなくても早く帰るって。この酒飲みたいからな。
「ジン」
「何だよ。お前もさっさと行けよ」
「待ってるからな……。何時でも戻って来いよ……」
エドは目を合わせずそう言うと、トラックに乗り走り出して行った。
「なぁにが待ってるだよ。男に言う台詞じゃねぇだろ……」
分かってる。アイツなりに心配して気を遣ってくれている事ぐらい。ガキの頃からの付き合いだからな……。いかんいかん。年取るとついしんみりしちまう。直ぐ帰って早く酒飲まな……って、別に家まで待つ必要ないだろ。このまま歩きながら飲んで帰ろう。
ボトルの蓋を開け、俺は待ってましたと言わんばかりに勢いよく飲んだ。
ゴクッゴクッゴクッゴクッ。
変わった味だが悪くねぇ。
「ぷはぁ~! 苦労して手に入れた酒はまた格別だな。あんな大袈裟に運んでたからどれ程の物かと思ったが……あまり美味くはないな。それともこれが、王族達のお上品な味ってやつなのかね」
――ドクンッ……!
「ん……?」
何だ? 今一瞬体が熱くなった気がしたけど……。気のせいか? 久々に結構動いたから疲れたかな体が。嫌だね……年取るってのは。早く帰って寝るとしよう。酒も飲んだしよく眠れそうだ。
そしてその日の夜。
俺は何時もの如く、“殺された家族”の夢を見た――。
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