ロッシェーヌの手紙

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 遠い所をわざわざお越し頂き申し訳ないわ。そんなことない、ですか。あなたは私よりもロッシェーヌを大事に思っていらっしゃるのね。  皮肉ですかって。いいえ、そんなことはありませんわ。私だってあなたと同じくらい、いいえもしかしたらあなたよりもロッシェーヌのことわ考えていると思いたいわ。  ええ。そうね。あなたは彼女の父親の弟。私は彼女の母親の姉。あなたの兄と私の妹が事故で亡くなった後、ロッシェ―ヌはあなた方夫婦に引き取られ、ながいこと田舎で暮らしていたから、年頃になれば都会(まち)に憧れを抱くのはどこの子も一緒でしょう。  私には夫もういない。子もいない。寂しい独り者。ロッシェーヌが来てくれたおかげで毎日が楽しくて。  え?ああ、私の話なんてどうでもいいから、ロッシェーヌに何があったのか教えてくれ、ですか。妻もとても心配している、そうでしょうね。でもね、本当に私は何も知らないし、何でこんなことになったのか全く見当も付かないのよ。  何ですか、それは。ああ、ロッシェーヌからの手紙なのね。そういえば彼女は月に二度、あなた宛てに手紙を書いていたようね。  あら、読んでもいいの? これを読めば心当たりがないかわかるかもしれない、ですって。さぁ、それはどうかしら。ではちょっと読ませてもらうわ。  叔父様へ。  おば様もお元気かしら。お身体が弱いので心配です。わたしは元気にしています。街に来てひと月が過ぎました。街はいつも賑やかで騒々しいくらいです。  伯母様はわたしにとても良くして下さいます。先月も新しい洋服を仕立てて下さったのよ。美味しい物もいっぱい食べさせてくれます。街へ来てよかったと思っています。決して叔父様と暮らした田舎が嫌いなわけではありません。新しくて珍しいものをこの目で見ておきたい、そう思って伯母様の所へ行ったのですから。  ではまたお便りします。お元気で。                             ロッシェーヌ  叔父様  お変わりありませんか。おば様の具合はいかがですか。心配なので伯母様に頼んでお薬を調合してもらいました。伯母様ってとても顔が広いの。先日は退役された軍人さんがおみえになって。話が逸れましたね。伯母様の御友人にお医者さまがいて。そのお医者さまが調合してくれました。  それから嬉しいお報せがあります。伯母様の紹介で街外れのお屋敷で、幼い兄妹の家庭教師を務めることになりました。昨日そのお屋敷へ行って旦那様と奥様にお会いしました。物腰の柔らかな穏やかな方です。子供たちもとても愛らしくて、これから楽しみです。  街外れといっても伯母様の家から歩いて四十分ほどなので、わたしは通うことにしました。だって伯母様が独りになるの寂しいって仰るから。  次の便りには、家庭教師の仕事のことを書けると思います。待っていて下さいね。お元気で。                             ロッシェーヌ                              
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