背中のそいつ

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背中のそいつ

数日ぶりの風呂に入り、上はタオルだけ引っ掛けてベッドの端に腰を下ろす。 爽快だ。 隣のベッドで地図を広げてる奴も、さっさとこの気分を味わえばいいのにと思うが、どうせ声をかけても自分の好きな時に好きなようにしか動かないのだから放っておく。 しばらくそうしていると、 「なあ、背中触っていいか?」 さっきまで自分の世界に入ってた奴が、いつの間にかこちらを見て話しかけてくる。 こいつが自分の行動の許可を確認してくるのは、この時だけだ。 ちらりと視線を合わせて離す。 すると、いつもに比べてゆっくりとした動きで背中の後ろに座る。 少しの間の後、指先で右の肩甲骨辺りを触れ始める。何かを描くように、なぞるように。左の背骨から腰骨辺りも同じように触れ始める。それぞれの指先は、同じような動きのまま、上下左右に動いていく。 しばらくそうして指先で触れていると、左右の肩甲骨の下に手が添えられ、背中の中央に頬と髪が触れる。そのまま数分動かなくなる……。 こいつと旅をし始めて、そんなに経っていないある日、今と同じようにベッドに腰を掛けていると視線を感じた。 いつから見ていたのか、いつも自分の世界しか見ていない奴がこちらを見ていた。 とんでもない奴だが、まだ少女のようなものだ。男の傷だらけの背中を見て驚いているのだろう。 見ても見られても気持ちのいいものでもないので、さっさと衣服を身に付けた。 1年程経った頃、うだるような暑さが続いた。 川や湖でも水浴びをしたが、必然的に風呂に入る機会も多くなった。 どんな仕組みかは知らないが、こいつの神がかった運の強さのおかげで、必要な時は風呂にありつけた。 さすがに風呂上がりは暑く、そんな繊細な神経の持ち主ではない事を充分理解した為、タオルを引っ掛けてベッドへ座る。 隣のベッドでは、先程賭けで手に入れた、見慣れない刺繍が施された帽子を手に、「ほぉ」だの「へ~」だのと自分の世界に浸ってる奴が居る。 しばらくそうして、窓からの風を感じていると… 見ている 初め程ではないが、少し驚いているような顔だ。 あの時はまだわからなかったが、こいつがこんな顔をして時を止めるのは、非常に珍しい。 が、当然怖がるわけでも、泣き出すわけでもなく、放っておいてみる。 すると、 「なあ、背中触ってもいいか?」 そう、聞いてきた。
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