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あいつの背中
地図を広げると無限の想像が膨らむ。そこからどんどん妄想の世界が広がっていく。
よし、やっぱり明日はこっちに向かってみよう!
昨日とは違うルートの直感を感じて、明日への期待を膨らませる。
ふと気付くと、いつの間にか風呂から出て来ていたあいつが隣のベッドに座っていた。最高に気持ちいい時間も、こいつの眉間に出来た深い皺は居座っている。
一緒に居て鍛えてる所など見たことないが、一切の余分な脂肪がなく、鍛えられた筋肉も、こいつから離れる気がないらしい。
だが、顔も筋肉もどうでもいい。
今日もこいつの背中は不思議な魅力で惹き付ける。ここからでも見える幾つかの傷が格好いいと思うわけではない。
もっと近づいて触りたい。
「なあ、背中触ってもいいか?」
ちらりと視線を送り戻す。
無言の了承を受け取り、そいつの背中の後ろへと座る。
近くではないと見えない無数の傷達。こいつが何処で何をしてきたのかは知らない。その傷達だけが、こいつを物語る。1つずつ傷を追っていく。大きな傷はほんの数ヶ所だ。あとは小さな、細かい傷が、至る所に色んな形で背中を埋め尽くす。
両手で傷を追った後、傷で埋め尽くされたど真ん中に顔を埋める。
初めて見た時驚いた。
あんなつまんなそうな、苦労を刻んだような顔をした奴の裏側が、こんなに魅力的なものなのかと思った。
だが、視線に気付いたそいつは、さっさと服を着てしまった。まだ出会ってあまり経ってなかったし、見られたくなさそうだったので、その時は物凄い努力で我慢してやった。
1年程経った頃、何をしていなくても汗をかく。そんな暑い日が続いたある日、その日手に入れた変わった刺繍の帽子を眺めていると、隣のベッドであいつが涼んでいた。
やっぱり気になる。
綺麗とは違う気がするが、よくわからない魅力を放つそいつの背中を見ていると、こちらの視線に気付いたようだった。が、今日は服を着ようとしない。
触らせて…くれるだろうか?
こいつがどんな人生を送ってきたのかは知らないが、おそらく立派なんであろう剣を担ぎ、少し後ろで子供が走っただけでも警戒し、店で飯を食べてても背後を気にしているような奴だ。
そんな男が、背中を触らせてくれるだろうか?
「なあ、背中触ってもいいか?」
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