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少し驚いたようだったが、意外にも、
「好きにしろ」
との言葉が返ってきた。
早速背中の後ろに座ってみる。
隣のベッドからは見えなかった、小さな傷が沢山ある。どの位前からの傷なのか。どの位前までの傷なのか。
そっと傷をなぞってみると、
「っ」
少し体を揺らした。
そんなはずないとは思ったが、一応聞いてみる。
「これ、痛いのか?」
「もう痛みはない」
だよな、と思いながら、目についた傷を1つ1つなぞっていく。見れば見る程見付かり、両手でなぞっていく。
「っ」
また少し体を揺らしたが、何も言わないので気にしないことにする。
深く刻み込まれた傷は少ないが、傷だとわかるもの、ほとんど消えかけているもの、それらは背中を埋め尽くしている。
まるで1枚1枚が集まって出来る鳥の羽のように、その1つ1つの傷が、こいつの背中を造り上げ、その中に色んなものを仕舞い込んでいるようだった。
こんなに沢山の傷で隠されているものは、どんなものなのか?
両手と顔を付けて目を閉じてみる。
だからといって、何が分かるわけでもないが、自分が気に入ったものに触れてる瞬間は幸福だ。
目を閉じると広がる世界に少し似ている。
目を閉じると広がる世界は綺麗と幸福に満ちている。でも、綺麗と幸福以外も大切で、何よりそっちの方が面白いのだと、幼い頃ばあちゃんが教えてくれた。
目を開けて深く息をする。
男の汗の匂いと、埃っぽい部屋の匂い。
よし!
勢い良くベッドから降りて、軋む床を踏みしめる。
「さてと、今日はどんな店に食いに行こうか!」
驚いたように見てきたたそいつの顔は、裏側の魅力等微塵も感じさせない、笑える位不機嫌な顔だった。
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