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あれからも、こいつの不機嫌そうな顔も眉間の皺も変わることはないが、こうして背中を見せることも触らせることも昔ほど嫌そうではなかった。
あまり人の事を気にしていないので、隣でこいつが何をしているのか等、声をかけられでもしなければ、ほとんど気にすることはない。時々、自分の意識が自分の世界から離れた時、たまたまあいつの背中があると、やはり魅入ってしまう。
長年培ってきたものなのか、こいつの警戒心はあの時と変わらない。
だから、一応確認してみる。
無言の了承を受け取る。
あの時とあまり変わりない、けれども少し薄くなっている小さな傷。次にこうして見た時、この傷は消えてしまっているだろうか。
こうしてこいつは、傷を少しずつ飲み込んでいくのだろうか。
中に仕舞い込んでいるであろうものに近づく。目を閉じるとあの時と同じ幸福感。
深く息をする。男の汗の匂い。埃っぽい部屋の匂い。騒がしい窓の外の音。
「さて!」
ベッドから飛び降り、軋む床を踏みしめる。
「今日はどんな変わった店に入ろうか!」
振り向いたそいつの驚いた顔は、やっぱりどう考えても、あの魅力的な裏側を隠し持っている等と微塵も感じさせない、笑える顔だった。
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