あかねの空に見える雲

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あかねの空に見える雲

お母さんも働いているから、家にはだれもいない。 お友達の家には、お母さんが待っていてオヤツを作ってくれるんだって。 だけど、だれもいない私の家にはカギがかかっていて、中に入る事もできない。 学校に行く前に、家のカギを持ち忘れた。 私はよくカギを持ち忘れる。 そうすると、家には入れない。 だから、家の前に座って待ってるの。 だんだんお日様が沈んで来て、空があかね色に染る。 私は悪い子なのよ。 だから家に帰らずに、いつまでも外で遊んでいる。 家に帰ると、オヤツを出してくれる友達のお母さん。 いつもうらやましいと思ってた。 手作りのおかしが出て来て、幸せなんだろうね。 私は空があかね色になって、真っ暗になって、それでも待ち続ける。 カギがフワリと空から()()りて来たらいいのに。 そうしたら、私はたとえ一人だとしても、明るい部屋でふるえていなくてすむのに。 お母さん、早く帰って来て。 お友達のお母さんをうらやんだりしない。 お手伝いもするし、勉強もがんばる。 だから、私のいる場所に明かりをともして欲しいの。 私は外で遊ぶのが好きなんじゃない。 カギを忘れたバカな子だと怒らないで。 お母さん。 会いたい。 もう会えないわけじゃないけれど。 二度と会えなくなったら、どうしようと思うことがある。 雲が私のことをバカな子だと笑っているから。 のどがかわいた。 手が冷たい。 もう、暗くてここはとても怖いの。 私はお守りみたいにカギを首から下げている。 きれいなペンダントみたいでしょ。 でも、これを下げてる子の目は、私と同じなんだわ。 開けられないドアの前で、暗くなるまで待っている。 お母さん、いつ帰って来るのかな。 もう外の(あか)りがともって、虫たちが集まって来た。 私は悪い子みたいに外で遊んでいるの。 怒らないでほしいの。
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