そばにいるから

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そばにいるから

 灯台のふもとまで来て、広い公苑の中をふたりで見て歩く。今夜は平日ということもあり、歩きやすい。  舜はさまざまな色の光に照らされて、冬の花が咲く中、いつもの何倍も、何十倍も輝いていた。以前より細く、儚げだというのに。夜なのに眩しいくらい、神々しいまでに。  やっぱり舜は光の中で生きるのが似合うと、怜は改めて納得させられてしまった。  それから、はしゃいだ舜が疲れすぎないように、早めに切り上げ、暗い階段をゆっくり降りる。  行き交う人もまばらで、誰も自分達を気にしない。絡ませた指に環を感じながら、手を繋いで。  時間もゆっくり流れるよう、江の島の龍に、弁天様に、願いながら。 * 「怜、舜、ごめんな。遅くなっちゃったな」  ハザードの点いた車から、仁吉が降りてこちらへ向かってきた。 「大丈夫です。ほら、舜、帰るよ」  仁吉がベンチの傍まで来て、舜の様子を窺っている。立ち止まった足の草履が砂を踏んで、じゃりじゃりと音を立てた。 「おじさん」  声をかけると、仁吉は怜の横まで来た。  疲れないようにと気を使ったつもりだったが、ここでうたた寝してしまうほど舜は体力を失っていると気付かされる。  仁吉は舜を挟んで向こうへ座り、そっと頭を撫でていた。こんな時の所作も綺麗で、それが怜の不安を和らげた。 「俺、舜のことわけがわからなくて、でもどんどん好きになって、死なないでほしいって思うようになって、俺には舜を手放す覚悟なんてできなくて。考えただけで肺が裂けそうに息が苦しくて。舜に出逢って、やっと俺、変われたって思うのに、もう一緒にいられないなんて」  誰に言うともなく。ただ心のうちを晒してしまいたかった。それほど、怜の感情は揺れて、隠しようがなかった。  いつからかわからない、いつの間にか、怜の眼から涙が溢れ落ちている。 「ごめんなさい。こんなことおじさんに言っても仕方ない、でも……」 「いいよ、怜。それでいいんだ。お前の気持ちをちゃんと、伝えなさい」  仁吉は微笑んで、頷きながら怜の手を軽く握った。 「なに? なんの話?」  突然覚醒した舜が話かけてきた。寒くないか確認して怜が立ち上がるように促すと、舜は危なげない様子で立ち上がった。 「さあ帰ろう。暖かいもの作ってあるから。みんなで食べよう」  仁吉の言葉が、怜にはただただ優しく、ありがたかった。   *  その晩は冬の定番、里久の作る鍋だった。ここ最近食欲がなく、食べないこともあった舜が嘘のようによく食べた。  ほんのひととき、怜は有り得ない奇跡を、願ってしまった。    江の島の神様が、叶えてくれるのだと。
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