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変わらない
時間は正直だった。
江の島へ行った日から数日後、舜は怜のもとを旅立った。
虫の知らせというものが本当にあるのなら、仁吉にはあったのかもしれないし、妻を亡くした時の経験があるからかもしれない。翌日から舜の傍にいるように、仕事も休んでいいと、怜は言い渡されていた。
食事は口をつけるだけ、水分も舐めるくらいで、舜の体力は緩やかに奪われていく。
ベッドに横たわり、怜が話すのをせがみ、早く猫に会いたいと言った。名前は「マギー」にするのだと。由来はわからない。
怜もずっと話しかけた。舜がどこへも行かないように。
「舜、お前はさ、変わらないものはないって言ったけど、俺の、いま抱いてる気持ちはさ、変わらねえよ。事実として変わらず、残るんだ。お前が望む限り、俺はお前の傍にいる。知ってるくせにな、言わせやがって。八幡の桜見るんだろ。薔薇だって紫陽花だって……」
舜は羽ばたいていった。望むままの、自由へと。
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