シックスセンス

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「今朝、怪しい幽霊を見つけたの」  教室の中に入る前、学校の廊下で由衣はそんなことを言った。 「へえ」と僕は相槌を打つ。「どんな奴だったの?」 「それがね」と由衣は少し言いにくそうに言った。「すごく気味の悪い幽霊だったの。背の高い男の人だった。身体中血まみれで、何かを探すように街中をずっと動き回っていたわ」  話ながらその幽霊の姿を思い出したのか、彼女は手で自分の二の腕をさすりながらぶるぶると震えていた。 「幽霊は案外、見た目じゃわからないものなんじゃないのかい?」 「それは私にもわからないの。でも、彼が幽霊なのは間違いないわ。だって、あんな血まみれの人が街を歩いていたら、きっと街中パニックになっているもの」  確かにそうだね、と僕は頷いた。そしてしばらく考えてから僕はこんな提案を彼女にしてみた。 「それなら、その幽霊を追いかけてみない?」  彼女は目を丸くして驚いた。「何のために?」  僕はそれに追い打ちをかけるようにこう続けた。 「だって、その幽霊は何かを探すように歩き回っていたんだろう? もしかしたら、彼の探しているものは自分の死体だったりするかもしれないよ。それなら、それを僕らで弔ってあげないと」  由衣は僕の言っていることが理解できていないみたいだった。それは提案の内容にではなく、目的に対しての話だ。  僕だって、本気でその話をしたつもりはなかった。それは彼女と会話を続けるための手段でしかなく、会話が続けば話題はどうでもよかったのだ。  けれども、数時間後、僕らはその幽霊の後を追うことになっていた。  きっかけは由衣の声だった。そのときは二人して家路を歩いていた。その道は車が二台も並走できないほど細い道だった。当時の空はまだ青く、その空は道のわきに立っている民家によって多少切り取られている。  そんな道を歩いていると、由衣は口を押えてから何もないところを指さしてこう叫んだ。「ねえ、見て。あの幽霊だよ」と。  僕にそれは見えなかった。当然だ。僕には彼女のようなシックスセンスはない。しかしだからこそ、彼女が嘘をついていない限り、そこには確かに幽霊がいるということになる。  それからその幽霊を追い始めたのは、あふれ出てくる好奇心からだった。  由衣が「追ってみようか?」と僕に尋ねた。冗談のつもりだったと思う。けれども、僕は「君がそうしたいなら」と返した。すると、意外にも彼女はそれに首を振らなかった。  僕らは息を殺しながら、彼女は幽霊の姿を追いながら、僕は彼女の姿に並びながら、血まみれらしいその幽霊を追った。
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