シックスセンス

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 見えないものを追いかけるというのは、なかなか骨が折れると同時につまらないことでもあった。僕はただ由衣が話す「まっすぐ進んでる」だとか「右に曲がった」のような言葉に耳を傾けながら、由衣の隣を歩くことしかできなかった。本来感じるであろうスリルや探究心はそこにはなかった。  僕は試しに、自分の心を刺激するために血まみれだというその幽霊の姿を想像してみることにした。そうすれば、多少面白みというものを感じそうだった。  由衣の話によれば、その幽霊は背の高い男だ。着ている服は一体何だろうか? すぐに思いつくのはサラリーマンが着ているようなきっちりとしたスーツだ。それが血まみれになっているところを僕は想像する。真っ黒なスーツにはそれと同じくらい黒い血がべったりと付着していて、胸元に見える真っ白なワイシャツにもその血が張り付いている。紺色のネクタイにはコーヒーでも零したみたいな血痕が付いていて、スーツの袖やズボンの裾はすこし破れてブサブサになっている。  きっと、そんなところだろう。そうして幽霊の姿を想像してみると、それは確かに由衣が震えあがっても仕方ないほど気味の悪い姿をしている。今も懸命に幽霊の姿から目を離さず、その後を追っている由衣という女の子は見かけによらず、とても勇敢な少女なのかもしれない。  そう思った矢先、前を歩いていた由衣はその足をピタリと止めた。  見失ったのか、と僕が訊くと彼女は首を振った。 「あの幽霊、同じ道をずっとぐるぐると回っているみたいなの」  そう言われてあたりを見回してみると、そこは確かに由衣は初めに幽霊を見つけて指さした道だった。どうやら、元の場所に戻ってきたしまったらしい。  由衣は不思議に思いながら、もう少しその幽霊の後を追ってみると言った。君がそう言うならと僕は彼女の後ろを追ったが、数分後僕らはまたその道に戻ってきてしまった。 「もしかしたら、道に迷っているのかもしれない」と由衣は言った。その頃には、彼女に怯えているような素振りはなく、目の前に立っている不可解な存在に対する答えを欲しているようだった。  しかし、先ほどまで赤かった空はすでに墨のような黒が滲み始めている。これ以上、子供が街をうろつくのは危険だろう。ましてや、追っている相手は幽霊なのだから。 「今日はここまでにしておこうよ」と僕は由衣に言った。  由衣は少し不服そうだったが、空を見上げてから「そうだね」と頷いた。それから彼女は最後に例の幽霊を一度じっと見つめてから、踵を返して家路に戻った。  それから数日間、由衣はその幽霊を見たとは言わなかった。
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