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例の幽霊がもう一度姿を現した。
九月が終わる頃だっただろうか、由衣は僕にそう報告してきた。そのときの彼女はとても複雑な表情をしていた。無理もない話ではある。喜んでいいような話でもないが、かといって悲しみや恐怖を覚えるような話でもない。
僕は「追いかけるのか」と尋ねた。彼女は少し迷ってから頷き、僕らは放課後にその幽霊を追いかけることになった。
そして、その日の放課後、その幽霊の行き先と、僕の頭を悩ませていた先の季節の答えが判明することになる。
数日前、同じところをぐるぐると歩き回っていたその幽霊だったが、どうも今回はそうではないようだった。
「今日は前回と歩き方が違うみたい」と由衣は言った。どうも今回は以前と比べてその歩き方に迷いがないらしい。
その理由はすでにその幽霊が目的地に目星をつけていたからだと分かったのはすぐ後のことだった。
その幽霊はなんの躊躇なくこの街の奥にある森の中に入っていった。僕らはその後ろを追っていく。森に呑まれて辺りが暗くなるたびに、僕と由衣は不安や恐怖といった感情を募らせていった。
そして、森の奥に入ったとき、僕と由衣はそこにあった景色を見て、激しく動揺した。
男の幽霊が歩いて行った先には、ボロボロになったバスだったもの残骸があった。
僕は首を曲げて上を見る。視線の先には崖があり、そのてっぺんには歪んで崖の外に飛び出たガードレールが見えた。
そうか、ここはあの事件の現場なのか。
そう理解したとき、僕は強烈な頭痛に襲われた。
それが記憶が回帰したという合図だった。
僕はその瞬間、あの夏の出来事を思い出していた。
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