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 高校の正門前。生徒たちはニ方向から学校にやってくる。  学校から向かって右側から来る生徒は私鉄、左側から来る生徒は地下鉄の利用者で、他にも歩きや自転車に乗って登校する生徒もおり、正門をくぐると、校舎への坂道を登っていく。  春香(はるか)は地下鉄から地上までの階段を昇り、久々に目にした太陽の光に目を細めた。五月も終わりに近づき、ギラギラと照りつける太陽は、ブレザーを着ている春香の体をさらに暑くさせる。  それなのに隣を歩く姉は、涼しい顔をしながら学校までの道を歩き始めた。そんな彼女の凛とした横顔を眺めながら、春香は頬が緩むのを抑えられなかった。  姉の衿子(えりこ)は、肩より少し長めの黒髪をおろして、濃紺のブレザーに適度な長さのスカート、学年でも上位の成績のいわゆる優等生だった。  春香は小さい頃から年子の姉である衿子のことが大好きで、片時もそばを離れようとはしなかった。そのため姉のことを名前で呼び、朝は必ず一緒に登校をする。春香にとって衿子は自慢の姉であり、親友のような存在だった。  だからどうしても衿子と同じ学校に行きたかった春香は必死に勉強をし、なんとか補欠からの合格を勝ち取ったのだ。  一年ぶりに一緒に登校が出来るようになって、春香は心の底から嬉しかったーーそう、最初のうちは。  五月も終わりが近付き、高校生活にも慣れ始めたが、春香には少し気になることがあった。  二つの道からやってきた生徒たちが交わるこの校門で、毎朝必ず同じタイミングですれ違う人がいるのだ。  姉と同じ二年生の学年章をつけていて、髪は明るい茶色、耳にはいくつものピアスがついているのに、紺色の学ランは全く着崩していない。  見た目はこんなだけど、なんてったってこの学校に入れるんだから、それなりに頭が良いのだろう。  彼は私鉄の方向から歩いてくると、いつも衿子のすぐ右横を通り抜けていくーー。  こんなに広い道なのに、毎日衿子の横をギリギリ抜けていく姿に、春香はここ最近違和感を感じ始めていた。 「ねぇ衿ちゃん、あの人って知ってる?」  その人物が通り過ぎた後、春香は彼の背中を指差してそう尋ねた。  衿子はしばらく黙ったまま、妹の指さす方角をじっと見つめる。 「……あぁ、原田(はらだ)くんのこと? 彼がどうかした?」 「いや……ちょっと気になっただけ。衿ちゃん、知り合いだったりする?」 「別に……どうして?」 「ん? 何もないならいいの。やっぱり気のせいかもしれないし」  いつもならすらすらと言葉を発する衿子が、珍しく言葉に詰まったことに春香は気付いた。  あれ……衿ちゃん、もしかして私に何か隠してる?  そう考えると、なんだか胸の内がモヤモヤしてくる。今まで何でも話してくれたのに、姉が私に隠し事をしているなんて思いたくなかった。
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