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「あぁ、佐倉の妹か」  衿ちゃんの名前を出しただけなのに、私のことまで認識しているーーこれはやっぱりそうに違いないわ!  春香は腰に手を当て、原田に右手の人差し指を突きつける。 「私、知ってるんだからね! 原田さん、衿ちゃんのことが好きなんでしょ⁈」  どうだ、参ったか! とでも言うかのように、春香は更に鼻息を荒くする。その様子を目の前で見ていた原田は、表情を変えずにただ吹き出した。 「なっ……何吹き出してるのよ!」 「いや……あまりにストレート過ぎて笑える」 「はぁっ⁈」 「佐倉とは正反対のタイプなんだ」  春香は口をグッと閉ざした。それは小さな頃からずっと言われ続けてきた言葉。  キレイで優秀な姉とは真逆の私ーーでもそんな姉が私の誇りであり、憧れでもあった。衿ちゃんみたいになりたいって思ったけど、やっぱり持って生まれたものが違うから、こればかりは仕方がない。 「佐倉妹は、好きな花とかある?」 「私? うーん……バラとか好きかもーーっていきなり何⁈」  何故かスムーズに答えてしまい、自分の素直すぎる性格に頭を抱える。  何しろ母親がバラが好きだったこともあり、家の庭にはいくつものバラが花を咲かせる。その影響を受けてか、春香と衿子もバラを好むようになっていたため、バラに関する話はつい食いついてしまう習性があったのだ。 「へぇ……やっぱり姉妹なんだな。佐倉もバラが一番好きだって言ってた」 「……衿ちゃんが? もしかしてここにも来るの?」 「時々ね。ほら、そこの棚の多肉植物。それだけの量まで増やしたのが佐倉だよ」  原田は温室の中の一角にある棚を指さす。シルバーのパイプ棚の上に、所狭しと多肉植物が置かれていた。  春香は原田の横を通って、その棚の前まで歩いていく。種類ごとに名前の書かれたプレートが刺してあり、それは確実に衿子の字だった。 「衿ちゃん、多肉植物が好きなの?」 「みたいだよ。どちらかといえば、増やすことにハマっているのかな」  そんなこと知らなかった。学校にいる時間は別としても、一日中一緒にいるのは私のはずなのにーー春香はグッと唇を噛み締める。私の知らない姿をこの人が知っていることが悔しい。  あれ……でもこれって一体どういうこと? 私の仮説が間違っていたということ? だってこれはまるで衿ちゃんがここに通いつめているみたいじゃない……。 「あの……原田さんは……衿ちゃんのことが好きなの?」  春香がそう尋ねると、原田は何も語らず、ただ優しく微笑んだ。それから棚に置いてある多肉植物に添えられたプレートを、指先でそっと撫でる。  その途端、春香の中に言葉に表せない怒りのようなものが込み上げてきた。  原田の指が衿子に触れるーーそんな生々しい想像が頭の中で膨らみ、それを追い出すかのように勢いよく頭を横に振る。  私だって衿ちゃんがすごく大事だからよくわかる。この人は衿ちゃんを好きなんだ。 「今日は帰ります!」  そう吐き捨てると、春香は温室を飛び出した。
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