6人が本棚に入れています
本棚に追加
#4
どら猫はサチエたちを挑発するかように、まっすぐな一本道を、お魚をくわえて逃げていた。
「どう考えもバカにしてるよあいつ。ねぇ、もっとスピード出しなさいよ」
サチエが正夫を睨む。
「いや、ここの制限速度40キロで、すでに10キロオーバーですから」
「それを見越してあの走りか」
「いや、まさか。ハハハ、猫ですよ相手は」
正夫の顔の前に、エツミの手にした包丁がヌッとかざされる。
「猫舐めたらあかんぜよ。あいつはずる賢い。絶対に追いつけないとわかってるのよ」
「はあ、そうすっかねぇ」正夫はチラッとサチエを横道で見る。「あのう、ちなみに私、直田正夫と申します」
「名前なんて聞いてないよ」
バッサリ。
「一応、こんなご縁ですから、お名前を」
サチエが舌打ちする。
「くっそう、ぜんぜん差が縮まらないじゃん。え、なんか言った?」
「はい、なんてお呼びしたらいいかなと」
「ドロボー猫でいいよ」
「じゃなくて」
眉間に皺を寄せ、正夫を見る。
「こんな時にナンパ?」
「いやいやそんな。一応、同乗してる同士ですから」
「まぁね。サチエ。美園サチエ。一応独身」
正夫の顔に初めて笑みがこぼれた。
彼も独身で、しかも、婚活中だった。
へんてこりんな出会いだが、出会いは出会いだと、かなり強引にそう思った。
正夫はサチエのような、ちょっと気の強い美人がドストライクだったのだ。
「奇遇ですぅ。これも何かの運命・・・」
「ああーっ!右に曲がった!!」
サチエの突然の大声に正夫はびっくりしてハンドルをぐらりと曲げる。対向車が避けるよう反対側にハンドルを切った。
2台は寸でで正面衝突を避けることができた。
正夫は車を立て直す。対抗車は開けた窓からバカヤロー!と叫んで走って行った。
「危っぶないじゃない。何やってのよ」
「す、すみません!っていうか、そっちが」
「あの角、右に曲がって。ヤツがそっちに曲がったから」
「ラジャ!」
車は、四つ角を右に折れ、狭い路地に入っていった。
最初のコメントを投稿しよう!