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#5
「この勝負、もらったわ」
サチエたちの車は、袋小路になった先にある空き地の前に止まっていた。
以前、そこは重機などを置く場所だったが、いまは雑草が生え、重機は何もなく、あるのはもう使われていない、古びた倉庫だけだった。
猫の姿はなかったが、サチエはニヤニヤ笑っていた。
「見て、倉庫の入り口がちょっと開いてるよね」
サチエが包丁を持った手で倉庫を指し示す。そして、しゃがみ込むと言った。
「ほら、これなんだかわかる?」
正夫もしゃがみこむ。
「地面」
「バカ、この足跡よ」
小さな、明らかに猫の足跡と見られるものが、倉庫の方まで点々と続いていた。
「すごいっすね。名刑事だ」
「猫は狭いところに入りたがる。倉庫の入り口が少し開いてるでしょ。本性があそこへとドロボー猫を導いたのよ」
正夫が手を叩く。一喝するサチエ。
「うるさい!静かにして」
「すみません、デカ長。で、この後、どうします」
サチエは立ち上がって腕組みをする。
「まず、あの倉庫の入り口を閉鎖する。逃げないよう」
「ホシを閉じ込める。ラジャ!」
眉間に皺を寄せ、渋い顔で頷くサチエ。
完全に、成り切っているふたり。
サチエと正夫は音を立てないよう、倉庫の入り口に近づくと、重そうな鉄のドアを両サイドから閉めにかかった。
しかし、錆びついているのか、耳障りな音はするものの、ドアはピクともしなかった。
「デカ長、これムリっすね」
荒い息を吐く正夫。サチエの額にも汗が滲んでいた。
「日が暮れたらヤツの思うけどツボだ。しかたねぇな、ドッキリカメラ作戦で行くか」
正夫が首を傾げる。夕陽がふたりをオレンジ色に染め、長い影は猫の足跡に沿って長く伸びていた。
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