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#7
「土がかかるかもしんないから、目を瞑って下向いててぇ」
「サ、サチエさん!やめて!!お願いだから」
その声に構わず、サチエは刈って来た雑草を何の躊躇もなく、穴にバサっとかけた。
1回、2回、3回・・・。
穴の中から、正夫のくぐもった声がしていたが、雑草をかけ終わった時には、もう、声はしなくなった。
「じゃあ、猫を倉庫から追い出してくるから、よろしく!」
返事はなかった。
サチエは開けた穴から出た土をドアの外の両サイドに積み上げていた。逃げ出て来た猫が横に逃げるのを防ぐためだ。
「よし、抜かりなし。お局を舐めんなよ」
自覚していた。
サチエは、倉庫の中に入る。
裸足の足にコンクリートのひんやりとした冷たさが伝わる。
倉庫の中に窓はなく、電気もつきそうになかった。湿気た臭いと、アンモニア臭がした。
猫のおしっこの臭いだとすぐにわかった。
「ここを寝ぐらにしてたかヤツは。アジト発見」
足元に何かが当たった。
足で探ると。棒状の鉄の何かだった。しゃがんでそれを拾い上げ、左手の包丁と持ち替えた。
サチエが叫ぶ。
「ドロボー猫、お前はもう包囲されている。観念して出て来なさい!」
刑事ドラマの見過ぎだ。
猫が逃げるような音も、泣き声もしない。
サチエは、右手に持っている鉄の棒を、力一杯、そなるべく遠くに向けて投げた。
バン、という音に続いて、カランカランと鉄の棒が転がる音がした。
それでも、何の動きもない。
暗闇に目が慣れて来た。
倉庫には埃をかぶった重機が置かれているのがわかった。サチエは思った。あの重機の中にいるな、と。
暗闇の中を、ゆっくりと重機に近づく。
よく見ると、さっきまで投げた鉄の棒が床に転がっているのが見えた。
「とにかく、脅かして外に逃す」
独り言を言い、鉄の棒を拾い上げると、息を胸いっぱい吸った。そして、鉄の棒で重機を叩く。
ガンガンガン!
「このドロボー猫がぁ!!」
サチエの叫び声が倉庫の中の空気を震わす。
その時だった。
ニャーという声がした。見ると、猫の目が重機の上からサチエを見ていた。
「ほうら、出て来やがったなぁ、ドロボー猫。私を普通の人間だと思ったのが運の尽き。私は絶対、やり遂げる女よ」
サチエが鉄の棒を構えた。
「お局サチエとは、あたしのこってい!」
意味不明。
サチエは、猫がいるであろう方へ、鉄の棒をぶん投げた。
ギャーッという猫の叫び声。明らかに驚いているとサチエは思った。
しかし、次の瞬間だった。
闇の中に、いくつもの光る猫の目が見えたのは。
数十匹と言う猫が、闇の中に隠れていたのだ。
「猫の・・・巣窟」
サチエが一歩、二歩、後退りする。
1匹ならともかく、この数はヤバい。襲われたら猫といえどどうなるかわからない。
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