近所迷惑な彼女

11/14
前へ
/14ページ
次へ
「ごめんね、心配かけちゃった」  膝を抱えた恰好のまま、肩をすくめる彼女の表情からは、けれど悪びれるようすは感じ取れない。  ぼくは少しむっとしながらも、握りしめていた上着の存在を思い出し、彼女に差し出した。  しかし、おもむろに差し出したそれは上着ではなく、ゼッケンの縫い付けられた、学校指定の長袖ジャージだった。 「あ、ありがとう」  そう言って彼女はくすりと笑ったが、結局それは受けとってもらえなかった。  行き場を失った紺色のジャージは、ぼくの手に掴まれたままうなだれていた。  ぼくは猛烈に恥ずかしくなって、ああ、早く大人になりたい、と強く思った。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加