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「ごめんね、心配かけちゃった」
膝を抱えた恰好のまま、肩をすくめる彼女の表情からは、けれど悪びれるようすは感じ取れない。
ぼくは少しむっとしながらも、握りしめていた上着の存在を思い出し、彼女に差し出した。
しかし、おもむろに差し出したそれは上着ではなく、ゼッケンの縫い付けられた、学校指定の長袖ジャージだった。
「あ、ありがとう」
そう言って彼女はくすりと笑ったが、結局それは受けとってもらえなかった。
行き場を失った紺色のジャージは、ぼくの手に掴まれたままうなだれていた。
ぼくは猛烈に恥ずかしくなって、ああ、早く大人になりたい、と強く思った。
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