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ふらの
ヒイコ御用達のスーパー(ごく一般的な全国チェーンのスーパーである)で、タマネギが特売になっていた。
小ぶりのダンボール箱に中玉が10個は入っているだろう。
ヒイコ、近頃自炊をさぼりがちである。暑いから。
それなのに、そのタマネギの箱から目が離せない。
――かなり安いよね? それに……
ヒイコが釘付けになった理由は、ダンボール箱にあった。
箱には大きく、「ふらの」と書かれていたのだ。
――いいなあ、富良野だって。
広大な大地、ラベンダー畑……涼やかな北海道に想いを馳せていた。
****
自宅アパートに戻ったヒイコは、冷蔵庫にも入らないタマネギの箱とにらめっこしていた。
そう、ヒイコは結局、富良野の恵みをお持ち帰りしたのだった。
――って、わたし、何で買ってしまったんだろう。料理する? いやあ……面倒くさいなあ。実家に半分送る? いや、せっかく安く買ったのに、送料で高くつくか……
そこで、ヒイコはひらめいた。大家さんにおすそ分けしようと。
ヒイコのアパートの大家さんは斜め下の部屋に住んでいて、人の良さそうなおばさんだ。
もう何度か「おすそ分け」と称して、ちょっと珍しいお菓子だったり、京都の名産をいただいていた。
何をお返ししようかと考えあぐねていたところだ。
――ちょうどいいじゃん! タマネギのおすそ分けなら仰々しくないし。
ヒイコは四つタマネギをビニール袋に入れて、大家さんを訪ねた。
はーいと玄関から出てきてくれた大家さんは、いつもどおりにこやかだ。
「これ、おすそ分けです。買いすぎてしまって。富良野産なんです」
「あらあ、ありがとう! ちょうどタマネギ切らしてたから嬉しいわ」
ヒイコ、タマネギははけたし、大家さんへのお返しもできて一石二鳥だとほくそ笑んでいたのだが……
「ちょっと待ってね」
大家さんはそう言って、部屋に引っ込んでしまった。
しばらくして出てきた大家さんの手には、タマネギの箱より二回りも三回りも大きなダンボール箱が抱えられている。
「これね、九州に住んでる親戚から届いたんだけど」
大家さんが箱を開けると、ナス、キュウリ、トマトがぎゅぎゅっと詰められていた。
「おすそ分け。新鮮でおいしいわよ」
「……」
ヒイコ、撃沈である。
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