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空を見る
立花ヒイコ、京都に来てからよく空を見上げるようになった。
特にお気に入りは鴨川の空。
広い空は日常のモヤモヤを吸い取ってくれるような包容力がある。
さて、京都といえば、紅葉の名所がたくさんある。
東福寺、南禅寺、嵐山……
しかし、ヒイコはこの秋、どこの名所にも行っていない。
先日、ヒイコの妹・リイコから電話があった。
「ね、来週、お姉ちゃんのとこ行こうと思うんだけど、京都案内してよ」
ヒイコ、瞬時に眉根を寄せた。
「え~。来るのは良いけど、今は無理」
「なんでよ? 紅葉狩りしたいんだけど」
「それだよ~。草木の葉っぱが落ちてから来てください」
「はあ!?」
そんな感じで姉妹げんかへと発展したのであった。
なぜ断ったかって……どこも人まみれで、その場にいるだけで疲弊することが目に見えているからだ。
立花ヒイコ、祭りは好きだが、人混みは嫌いだ。紅葉と人混み、天秤にかけたら、僅差で人混みが優勢になった。
――とは言ったものの、紅葉観たい……
矛盾だらけのヒイコが何気なく自転車を走らせていると――
暖かい日光に照らされ黄金色に輝くイチョウ並木が目に飛び込んできた。
――わあお……!!
大きな青空とイチョウ並木……最高のロケーションである。
――観光名所、行かなくても十分じゃん!!
ほくほくのヒイコはふと気づいた。
この通りの空がやたら広く見える違和感に。
――なぜ……?
翌日、草刈先輩にこの違和感を話してみた。すると、あっという間に違和感の正体が判明した。
「それは、電柱がないからでしょうね」
「で、電柱!?」
「電線、なかったんとちゃう?」
――電線……確かになかった、かもしれない。
「大通りの一部は電柱が地中化されてるから。障害物なく、空が広く見えたんちゃう?」
――なるほど! 電柱が地中化って訳分からんけど……なるほど!!
そう、イチョウ並木が綺麗な大通りには電柱と電線がない。それが空を大きく見せている所以であった。
「だったら……いっそのこと全部地中化したら、もっと綺麗な街並みになるのに」
草刈先輩はふふふといたずらな笑みを浮かべた。
「とんでもなく巨額な資金があればできるかも、ね」
――きょ、巨額な……!!!
草刈先輩の不敵な笑みが示す『巨額』がヒイコには恐ろしく、想像すらできないのであった。
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