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お歳暮
ヒイコが郵便当番の日に、取引先の会社からお歳暮が届いた。
――そっか、もう12月かあ。
課長に伝えると、みんなに配っといて、とのことだ。
ビリビリと高島屋の包装紙を破る。
お品はおせんべいの詰め合わせだった。
数は……19個。
総務部の人数は20人。
足りない。ひとつだけ……
立花ヒイコ、日本人らしい奥ゆかしい決断を下した。
――私がもらわなきゃいいや。
非常に大人の選択をしたヒイコだが、心の奥底をのぞいて見るとこんな感情も……
――おせんべいって残業中に食べると、音が鳴り響くんだよね。うん、別にいらないや。
しかし、自分のそんな感情はしまい込んで、都合のよろしいヒイコは、人知れず『良いこと』をした気分に浸った。
翌日。
今度は窓口に取引先の人が挨拶にやってきた。
そうして受け取ったのは、またしてもお歳暮。
課長は昨日と同じく、配っておいて、とのことだった。
包装紙をやぶいて、蓋をあけると……
――わあ。チーズケーキ!
三種のチーズケーキの詰め合わせだった。
――おいしそう!!
さて、数を確認すると……19個。
スフレタイプが4個、イチジクが入っているキューブ型が5個、一口サイズのベイクドチーズが10個。どれも捨てがたい。
――な、な、なんでこれも19個なの!? 絶対半端でしょ!
立花ヒイコは考えた。いや、考える前に、このチーズケーキを食べたかった。
あまり迷うことなく下した結論は……今日、居る人だけに配ろう、だ。
幸い、今日は山本ちゃんひとりが休みだ。
それにヒイコには昨日の『貯金』がある。昨日は自分が遠慮したんだ。今日はいただいてもいいだろう数式が成り立った。……品物によって選り好みしていることは置いておいて。
チーズケーキを無事配り終えたヒイコの元に課長がやって来た。
「立花さん、さっきのお歳暮、数足りた?」
「へっ?」
「ん……さっきのチーズケーキ、人数分あった?」
――課長は千里眼ですかっ!? なんで……なんで……
一気に湧き上がる冷や汗。
「あ……あの……足りなかったので、今日居る人だけに……」
「誰の分足りなかった?」
「あ……えっと、山本さんの……」
ふたりのやりとりにみんなの注目が集まっている。
――見ないで! 聞かないで! 私はそんな女じゃありません! 昨日は我慢したんです!
とは、もちろん言えず。
ヒイコ、顔から火が出そうである。
「そっか。じゃあ、これ、山本さんの席に置いておこう。いや、さっき出先でもらったお菓子、5つしかなかったからさ。配るにしてもね」
「は、はあ……そうだったんですね……」
何事もなく仕事に戻って行く面々。
ヒイコはというと……やっぱり悪いことはできないなと人知れず深いため息をつくのであった。
――チーズケーキの代償は大きかった。トホホ……
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