休み明け

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休み明け

 立花ヒイコ、正月連休まっただ中に風邪をひいた。    ここは京都。  近所を歩けば、容易に世界遺産の神社に辿り着く環境にある。  初詣に気合いが入る……はずだったのに。  3〇年の統計上、ヒイコは年末年始の休みに、体調を崩しがちである。  一年が無事終わって、気が抜けるのだろうか――  と、ちらりと思うが、発熱するほど力んだ覚えはないと自己分析するに至った。  さて、長引く風邪のため、今年の初出社が二日も出遅れてしまった。  同僚のみんなはとっくに新年のあいさつを済ませているわけである。 『あけましておめでとうございます。  本年もよろしくお願いいたします』  という決まり文句だ。  今さら、新年のご挨拶……いるか?  と、ごちゃごちゃ考えてしまう。    というのも、ヒイコ、新年のご挨拶が苦手である。  たった二行の文章だが、言葉にしている間がけっこう長く感じる。  ついつい早口でまくし立てるように言ってしまう。  こんな決まり切った文句、言う必要あるのかい? などと挨拶中に考えてしまうのだ。  前に、この話を母にしたところ、 「決まった言葉言うだけじゃない」  と一蹴された。  ああ、伝わらない、この感じ。  ――そうだ、一掃、事務室に入った途端、みんなに向かって言えばいいんんだ! そしたら、何度も言わなくて済む!  立花ヒイコ、名案を思いつくも一瞬で却下する。  全員の前で堂々と言える度胸があれば、こんな苦労はしないのだ。  さらりとそれをやってのける人たちがうらやましい。  そして、初出社。  事務室に入ったヒイコは、やはり「おはようございます」しか言えなかった。  なぜ、ここで後二行が言えないのだ――  そして始まる個別のご挨拶タイム。  来年こそは、一皮むけたいものだ。  
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