勇気を振り絞る

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勇気を振り絞る

 京都は駅伝が多い街だ。冬になると、全国規模のよく駅伝が開催される。  今日は皇后盃全国女子駅伝。  前々から告知されているのにもかかわらず、うっかり忘れて交通規制に出くわしてしまうヒイコなのである。  年末にも同じように、交通規制に出くわし、通りを渡れず家に帰れないという失態をおかした。  このときは、全国高校駅伝。  ヒイコが出会ったのはだいぶ後半の区間で、選手たちの間で大きく開きができてしまっていた。  ――これは、全員通過するのに長くなりそうだ。  寒空の下、ふるふると震えるヒイコの前を、たすきを掛けた男子高校生が颯爽と駆けていく。    その姿は力強くて、一生懸命で、みんなの期待を背負って、己と戦う若者だった。  彼らとは、一回りも歳が離れているのに、  ――はて、自分はこんなにも何かに一生懸命になったことはあっただろうか。  と自問自答するほど、感銘を受けた。  次から次へと、目の前を通過する選手たち。  群馬、愛媛、青森……みんな遠くから戦うためにやってきた選手たち。  気づいたら目に涙が溢れていた。  心の中で、がんばれ、がんばれ、と応援した。  歩道で観戦する人たちは、手を叩いて、声を出して応援している。  しかし、ヒイコは手を叩くだけでいっぱいいっぱいである。  声に出して『頑張れ』と言うことができない。  昔からこういうところがある……別にそれでいいと思っていたのに、今回ばかりは違った。  応援したい、少しでも声を届けたいと心から思ったのだ。  それでも、声に出ない応援……ああ、みんな頑張っているのに、私はなんて臆病なんだ――と肩を落とすヒイコだった。    そんなとき、だいぶ遅れを取った選手が見えた。  周りの人たちが口々に言う。 「ああ、最後尾の選手だ」  ひとつ前の選手の姿はもう見えない。それほど差が開いていた。  それでも、まっすぐ前だけを見て走る選手。  彼が目の前を走った瞬間、ヒイコの中でカチリと何かが動いた。 「がんばれーっ!」  ついに声になった応援。  はたして彼の耳に届いただろうか。それは彼にしか分からない。  でも――なんだか清らかな気持ちになれたヒイコなのであった。
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