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準備は万端ですか?
「てなわけで、住むところはなんとか確保できた」
昼下がりの事務室で、立花ヒイコは同期の美希にそう報告した。
結局、条件を譲歩しまくり、かなり年季の入ったアパートを押さえることができた。
「引越しは何日?」
「あ~、そうだね。四月一日はさっそく仕事だから、年休取ってせめて前日には京都にいたいかなって思ってるよ」
美希がきょとんと首を傾げる。と、歯磨きから戻って来たカンナ先輩が会話に入ってくる。
「思ってるよって、立花さん! もしかして、まだ引越し業者の予約してないの?」
――え……?
なんだか嫌な予感がヒイコの身体を駆け巡る。
立花ヒイコ、感は悪いし、学ばない女である。賃貸住宅の確保で手間どって冷や汗をかいたのは記憶に新しすぎる。
「三月下旬の引越し業者って、鬼忙しいはずだよ」
――ああ、わたしって大馬鹿……
残り十分の昼休憩、ヒイコはひたすら引越し業者へ電話しまくった。
悪い予感は予想を超えてきた。
そもそも繁忙期は遠距離の引越しを請け負う業者が少ないようなのだ。ヒイコが行き先を京都と告げた瞬間、門前払いを喰らった。
そうでないにしろ、今からの予約だと、三月下旬は予約で埋まっているという。
――ど、ど、ど、どうしよう……。引越しできるまで、ホテル住まいとか……いや、そんなお金どこにもないっ。
ヒイコの落胆ぶりを気の毒に思ったコールセンターのお姉さんが、
「単身赴任でしたら、家具はあちらで揃えて、あとの荷物は宅急便で送るほうがよいかもしれません」
――!!! なるほど、その手があったか……。お姉さん、神……。
「ありがとうございます!」
とりあえず、ほっとしたところで、昼休憩を終えるチャイムが鳴り響いた。
――もう同じ過ちは繰り返さんぞ!
そう決心したヒイコはこのあと、引越しの心得を片っ端から確認したのであった。
――世間知らずなわたし……とほほ……
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