そこじゃない

1/1
前へ
/47ページ
次へ

そこじゃない

 立花ヒイコ、コーヒーが好きである。  しかし、体が渋い反応を示す。  カフェインが強いせいなのか、すぐにお腹を下してしまいがちだ。  特に空きっ腹にコーヒー、一番危ない。  好きなのに飲めない、悲しみである。  ある寒い昼下がり。  お昼ご飯を買いに、セブンイレブンに立ち寄ったヒイコがふと視線を向けた先は……  レジ横、少し奥まったところにあるコーヒーマシーンだ。  マシーンの前には、おばさまがお一人。  どの種類にしようか迷っておられるご様子だ。    ――いいなあ。たまには飲んじゃおうかな、セブンのカフェラテ好きなんだよな。  とヒイコが脳内でぼやいていると、おばさま、カバンから財布を取り出した。  ――おっ、これは……  ヒイコが見守っていると、おばさまは財布から小銭を取り出してマシーンの前でおろおろし始めた。  ――間違いない!  ヒイコは、そっと声をかけた。 「あのお……このマシーンはお金を入れるところがなくて。レジでお会計するんです」  すると、おばさま、恥ずかしそうに目を細めた。 「あら、いやだ。初めて買うものだから分からなかったわ」 「ですよね。ここにお金入れたくなっちゃいますよね」  ヒイコ、わかりみである。  自販機風のマシーン、実際にありますものね。  おばさまは無事にレジで会計を済ませ、ホットコーヒーをゲットして帰って行った。  そこで、ヒイコ、ふと思った。  ――アイスの場合は、先に冷凍ケースからカップを取るんですよって教えてあげればよかったあ……  セブンのコーヒーを気に入ったおばさまが、夏、上手にアイスコーヒーを買えますように、と願うヒイコなのであった。  
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加