ようこそ、京都へ

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ようこそ、京都へ

 東京駅からのぞみで約二時間半、立花ヒイコは十数年ぶりとなる京都の地に降り立った。  京都駅の建物は、美術館と言われてもふしぎでないような奇想天外なデザインをしていて、意外にも近代的な雰囲気だった。    ヒイコが乗り換える予定の京都市営地下鉄は東口なのだが、ヒイコは烏丸口の階段を上っていた。どうしても、見ておきたいモノがあったのだ。  上り切った瞬間、目に入ってくる白くてシンプルなのっぽ。京都タワーである。  ――うわあ、京都だ。  ヒイコはようやく京都に来たと実感する。  ***  アパートに向かう前に、一度会社に顔を出すことなっていたヒイコは地下鉄烏丸線に乗り、会社の最寄り駅である烏丸御池で降りた。  明日、四月一日からヒイコが通うことになる京都支店は五階建てのビルの三階フロアにあった。  飾り気のないビルに入り、エレベーターに乗り込む。    ドクドクと小刻みに心臓が鼓動する。  ――お、落ち着け、心臓。  新幹線の背もたれでボサボサになった髪を押さえつける。  事務室の扉を開けると、受付カウンターの先に三十人ほどの社員が机に向かっていた。ヒイコが部屋を見渡していると、奥からクタッとくたびれた背広を着た男性がやっていた。タヌキのような面をした彼は、「立花さん?」と尋ねてくる。  すぐに気づいてもらえてホッとするヒイコ。 「は、はい。明日からお世話になります立花です」 「わたしは経理課長の田之上です。よろしく」  課長は少しにこやかな表情になって言った。 「ようこそ、京都へ」  ――はっ…… 「は、はい。あの……ありがとうございます」  田之上課長がフロアの社員を注目させて、ヒイコは一言挨拶をした。 「じゃあ、明日からよろしく」  課長の言葉に、会社をあとにしようとしたヒイコだったが、女性が近づいてきた。白く透き通った肌に、筋の通った鼻は、どこか西洋の香りを感じさせる。  とんでもない美人だ、とヒイコは思った。長い髪をひとつにまとめた、しとやかな雰囲気で、ほわんと香水の香りが鼻をくすぐる。 「立花さんの隣の席になる草刈です。よろしくお願いします」 「こ、こちらこそ、よろしくお願いしますっ」  田之上課長と話すときよりヒイコはなぜか緊張した。まさに”はんなり”という言葉が当てはまる美女だった。 「立花さん、京都に住むのは初めてですか?」 「は、はい」  草刈はにこりと微笑んだ。  ――う、美しすぎる……! 「それはそれは。ようこそ、京都へ」  ――本日、二回目の”ようこそ、京都へ”、出た! そんな言葉がすんなり出てくる京都人、なんかすごい……  と、妙に感動したけれど、やっぱりなんと言葉を返したらよいのか分からないヒイコであった。
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