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正解は
暑い。蒸されている。
京都の夏(正式にはまだ梅雨だ)は蒸し暑い。
こんなこと言ったら、日本全国だとヤジが飛んできそうだが、やっぱり蒸し度数が違う気がする、とヒイコは思う。
湿林の中にいるようだ。
ヒイコ、食欲がない。
いくら夏でも、食欲だけは落ちなかったのに、これも歳を取ったということか。
それとも京都の蒸し暑さの仕業なのか、定かでない。
アイスしか食べたくなかった。しかも氷系の。
大好物のハーゲンダッツだって、今はちょっと違う。
それじゃいかん、とヒイコは考えた。
――私、なになら食べたい? 食べられる?
お肉は嫌だ……。魚……魚もなにか違う。
けれどタンパク質は取らなにゃいかん。
ヒイコが考えをめぐらせて辿り着いた答えはツナパスタだった。
市販のパスタソースとツナ缶をパスタに和えるのだ。
これならば、食べられた。
パスタは百均のパスタ茹で器でレンチンする。
茹で器といっても、蓋に水切りの穴が開いているプラスチック容器だ。
しかも、レンチンするときは蓋もしない。
プラスチック容器にパスタと水を入れてチンするだけだ。
しかし……これがなかなか難しい。
パスタ同士がくっついて、固まってしまうのだ。
そうすると、おいしくない。当たり前だ、固いのだから。
食欲がないのに、おいしくないものを食べることは苦痛でしかなかった。
ヒイコ、模索を重ねる。
唯一まともに食べられる食事をパスタ茹で器に奪われてたまるものかと。
まず、水ではなくて、熱湯を注いでみた。
水からだと、沸騰するまでに時間がかかり、その過程でパスタがくっついてしまうと考えたのだ。
結果はまずまず。
しかし、全然うまく茹だらないときもある。
――そうだ! 鍋で茹でるときは塩を入れるんだから、レンチンでも入れないと!
はじめから鍋で茹でればいいじゃないか、というご指摘は置いておいて。
ヒイコ、初歩的な問題にようやく気づいた。
塩を投入した結果は、やはり『まずまず』である。
常に数本は固まってしまうし、ひどいときは束ができてしまった。
――そうだ! 途中でかき混ぜればいいんだYOU!
レンジの分数を半分の時間にして、箸を持ってスタンバイする。
レンジを開けると、中から熱い蒸気に見舞われる。
箸でパスタをかき混ぜようとするも、時は既に遅し……
パスタはもう束になっているではないか。
やはり初期段階で問題があるということなのか。
ヒイコは首をひねる。
「あっちっ!!!」
パスタの塊に気を取られて油断した。あつあつの蒸気が手についてしまった。
「熱いよお……なんで上手く茹だらないかなあ」
ヒイコ、ついに癇癪を起こす。
何パターン試すも、結局正解が分からず。
途方に暮れるヒイコなのであった。
こんな食生活で夏を乗り切れるのか!?
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