この感覚・・・

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この感覚・・・

 立花ヒイコ、夏バテに陥った。  京都の盆地を舐めていた。  39度を超えたこの夏、上からは太陽の熱が、下からはアスファルトの熱が容赦なく人間界を襲う。  上はトースター、下はフライパン、否、鉄板に乗せられオーブンに放り込まれた肉の気分だった。  朝も夜も、一瞬たりともエアコンの欠かせない日々が続いた。じゃないと、呼吸することすら苦しかった。  そして、ヒイコは夏バテた。  40度付近を経験したヒイコは一線を越えたのか、36、7度では暑いと感じなくなった。  むしろ、「今日は涼しい風が吹いているー、エアコンは要らないかしらん」  などと、たわけごとをつぶやく始末である。  さて、夏にバテても髪は伸びる。  ヒイコは重い腰を上げて、美容院に行った。  最近のヒイコは、ロングを貫いており、髪のパサつきを隠すため、いや、少しでも涼しくするため、お団子頭にしていたのだが……。  今回は思い切り切ってしまおうと、美容師さんに相談したところ、人生初の肩上ボブに挑戦することになった。  心なしか、うきうきとした気分で施術を受ける。 「いかがでしょう? さっぱりしましたよね」    美容師さんの声を合図に、雑誌から顔を上げたヒイコは、鏡に映る自分を見た。 「あ……はい。すっきり、しました」 ――び、微妙……。私って……あれ……こんなに……ちんちくりん?  久しぶりに思い出す、この感覚。  ヘアスタイルを変えたときにだけ出会うこの感覚。  初めて髪を染めたとき。雑誌のモデルさんに憧れてパーマをかけたとき。オンザ前髪の女優さんが可愛くて、真似してみたとき――  同じ髪型をしても、彼女たちのようにはいかなかった。当たり前だけど――  分かっている、自分がどんな容姿をしているかくらい。  それでも、現実を突きつけられるこの感覚。非常に残酷な瞬間であった。   ――う、うん。別にね……私ってこんなもん。うん、分かっちゃいるけど。  要は「慣れ」だ。この髪型だって、そのうち馴染んでくる。 ――それも分かっちゃいるけれど。  人知れずため息をつくヒイコなのであった。
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