もう遅い

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もう遅い

 立花ヒイコ、流行には敏感である。  と、少なくとも本人は思っている。  必要のないネット上の情報たちをスクロールし続けることが多々ある。  SNSは自分では発信しないものの、やっぱりスクロール……スクロール……。  疲れているときこそ、馬鹿みたいにスマホから目が離せなくなって、スクロールし続け、さらに疲労困憊する。  こんなとき、スマホは毒であると実感するのだ。  こんなヒイコであるから、世の動きについてはけっこう知っている。  しかし、その波に乗るのはとても遅い。  情報を見たときには、「へえ」と、なんにも心動かされなかった物事に、一年後、もしくはもっと後にヒイコの心に響くことが多い。  例えば、あるアイドルのオーディション番組が世間で大流行していたとき。  ヒイコの心はときめかず、「そんなにいいもんかねえ」と流行に乗る人々を斜め上から眺めていた。  しかし、それから約二年、かのアイドルたちの流行も下火になった頃。  なぜか、ヒイコは彼女たちに胸を打たれることとなった。  例えば、あるアニメが老若男女の間で大流行したとき。  知らないと、同僚の話題についていけないほどであったのに、そんなの関係ないとばかりに目もくれないヒイコだった。  それから、約三年後。  ふとしたきっかけからそのアニメを好きになったヒイコは、三年前であれば各地で催されていたイベントやキャンペーンに参加できなかったことを嘆くことになったのである。  さて、今宵の主題は「令和の米騒動」である。  少し前から、「米がスーパーから消えた」というニュースが世間に出回った。  それなのに、なぜか他人事のように悠長に構えていたヒイコ。 ――ふうん……  感想はそれだけである。その奥には、どうせ一部の店舗だけでしょ、とか、大げさに言ってるだけでしょ、とか……自分には関係のない事柄としてスクロールしていたのだ。  しかし、本日。  ヒイコ宅の米が尽きた。  では、スーパーに米を買いに行こうとしたヒイコだが…… ――米がないっ!!!!  驚愕するヒイコ。  三軒のスーパーを回ったヒイコだが、見事に全滅。  スーパーの米売り場は悲しいまでにぽっかりスペースが空いていた。  ようやく、事の重大さに気づくも、時既に遅し。  もう米は手に入るまい。  代わりにパスタや蕎麦を購入したヒイコなのであった。
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